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2024/03/19

初めまして、誰かさん。


弱ったな・・・どこに行ったんだ・・・・。
えっと・・・あっちは行ったか・・・。
こっちは・・・うーん、さっき来た道か・・・。
・・・・・あ、あのっ!すみません、そこの方っ!

 

 

えぇ、貴方ですっ!すみません突然お呼び止めしてしまって・・・。
私は旅をしている者なのですが・・・連れとはぐれてしまいまして。
これ位の背丈の少年を見かけませんでしたか?
えぇ・・・黒髪で、肌が白くて、タイピンに美しいブルーサファイアを着けていて・・・
十字架を首からぶら下げた子なんですが・・・。

 

 

 

あぁ・・・そうですか・・・。弱ったな・・・・。
・・・え?あ、汗が凄い?これは失敬・・・、連れを探すために走り回った物で。
あ、いいえ・・・この土地は初めてでは無いのですが・・・幾分不慣れで。

 

 


え、レモネードですか?いえ、滅相も無い!
見ず知らずの・・・しかも無理にお呼び止めしてしまった方から、慈悲を受けられませんっ。
・・・・・・え、ここでランチを?そうですか・・・ふむ・・・・。
確かにここはこの街で一番目立つ場所ですね。・・・解りました。
ここで連れを待つ事にしましょう・・・ありがとうございます。

 

 

 


あ、はい。私と連れは流れの演奏家なんです。
私はこのヴァイオリンを弾き、彼はそれに沿った歌を歌っています。
今日はこの土地に演奏会の下見に来たのですが・・・・。
おぉ、貴方も音楽に興味がお有りで?・・・・なら是非聞きにいらして下さい。
気紛れで興行を行うので、いつとはお知らせ出来ませんが・・・
必ずこの青い猫の広場でも、近い内に演奏会を開くつもりです。

 

 

 

あ、ありがとうございます・・・・遠慮なくいただきますね?
・・・・ふぅ、はぁ・・・・美味いっ!今まで飲んだレモネードで一番だっ!
・・・っと、すみません・・・。どうやら自分が思ってた以上に喉が渇いていた様だ。

 

 

 

あははっ!これは失敬・・・なんだか貴方とは初めて会った気がしない。
つい余所行きの言葉を忘れてしまいました。
・・・ふふっ、そうですか?なら遠慮なく”余所行きの言葉”を捨てましょう。

 

 

 


え?・・・あぁ、確かにこの国では私は少し”目立つ服装”をしているかも知れないな。
・・・高貴なお方?あはははっ!何をおかしな事を言い出すんだ。
流れの演奏家に、高貴なお方が居ると思う?・・・・答えはノーだ。

 

 

 

 

そう、ここから離れた遠い国ではこの衣装は”庶民の衣装”。
私も連れも、ただの地味な一介の演奏家さ。
もし私が君の言う様に”高貴なお方”だとしたら・・・
とんでもない”ぼんくら”だろうなぁ・・・・あははっ。
いやいや、君が謝る必要なんかないさ。
ただ何となく、そう思っただけなのだから。

 

 


・・・・うん?そう、彼とはここで離れ離れになってしまったらしい。
あんなに”手を離すな”と言ったのに、まったくアイツは・・・。
あぁ、そうだよ。私にとっては唯一無二の存在。
彼は私を本当の意味で”生まれ変わるチャンス”を与えてくれたのさ。
・・・・あぁ、とっても大事な子。私の存在に、無くてはならない存在。
だからこうやって離れてしまう度に胸が真っ二つになるみたいに痛むよ。

 

 

 

ーーール!ウーーーーーーーー  !

 

 

 


ん?ちょっと待って・・・・・・・

 

 

 

ウーーーーー!!----ル!    ウルッ!!

 

 

 


あっ、あの声・・・・どうやら連れが戻ってきたみたいだ。
今呼んで来るから、そのまま待っててくれないか?
いいからっ!このまま待っていて!・・・・・ダミアーンッ!!

 









 

 

ウル!!もう、ウルのバカ!!どこに行っちゃってたんだよっ!
僕、色んな所探し回っちゃったんだからなっ!!
人はウジャウジャ居るし、教会の神父に捉まっちゃうし!!

 

 

 

こら、先に手を放したのはダミアンの方だろう?
ここの広場は人が多いから、絶対に手を放さない様にと言っただろう?

 

 

違う、ウルがクシャミをして・・・その瞬間僕の手を解いたんじゃないかっ!

 

 

ん・・・?あれ?・・・・そうだったかな・・・。

 

 

そうだよっ!!

 

 


・・・・あははっ、そう言われて見て考えたら・・・・
確かにそうだった気がする・・・・。悪い、ダミアン。

 

 


もう、しっかりしてよねっ!お陰で人の波に飲まれちゃったじゃないかっ!
子供がいっぱい居て、俺のリボンを引っ張ろうとするんだ・・・っ
人がいっぱい居たから、何もしなかったけど・・・何なんだ、まったくっ!
大体ウルが全部悪いんじゃないかっ!いつだってウルが・・・

 

 


おおっと!お説教の前に、少しだけ良いかい?
ダミアンを探してる間にお世話になった方が居てね
その方にお礼をしたいんだ・・・金貨はある?

 

 


え・・・・?ウルがお世話されたの・・・?
どこ?どの人・・・?

 

 

 

ほら、あそこ。噴水の縁に腰掛けてブリオッシュを食べてる方だよ。
走り回って疲れている所に、あの方がレモネードをご馳走してくれたんだ。

 

 


へぇ・・・”人の良さそうな人”だね。
金貨なら、まだたくさんあるよ?

 

 

よしっ、ならあの方に渡してこよう。
それからすぐに馬車を調達しに行くぞ?
今日はここじゃない所にしよう。

 

 


うん?せっかく来たのに、ここではやらないの?
街にも人がたくさんだし、みんな腑抜けてていい表情してるのに。

 

 

 


うん、ここじゃない所の方が上手くいきそうだ。
なんだか・・・そうだな。なんだか嵐の匂いがする。
ほら、よくよく風の匂いを嗅いで御覧?これは空が警戒してる証拠だ。

 

 

 


クンクンクン・・・・あぁ、確かに嵐の匂いがする。
ちぇ・・・せっかく美味しそうな街だったのになぁ・・・。
残念だけど・・・嵐が来ちゃうと俺の歌声も、ウルの音色も響かないもんね。

 

 

 


あぁ、そうだな。残念だけれど・・・この国から離れればそこは晴れさ。
ここにはまた、日を改めてくればいいさ。日々は永遠に終わらないのだから。
・・・・さぁ、ダミアン?君もあの方に挨拶をして行くかい?

 

 


・・・・・うん、ちょっとだけ。
なんか良い匂いするし、興味はあるし。

 

 


よしっ、じゃあ行こう。
あっ、ダミアン?ひとつ忠告だ。
今日は親切にしてもらった相手なんだから、おかしな事言っちゃいけないぞ?

 

 

 

むぅーっ、解ってるよ!それに俺一人じゃ何も出来ない。
そんな事、ウルになら解っている事だろう?

 

 

あははっ、そうだった・・・うん、そうだったねダミアン。
ほら、俺が余計だったよ。ここに詫びよう。
・・・・だから、そんな風に拗ねるのは後にしよう?
さぁ、私の手を握って。今度こそ、放さない様に注意するから。

 












 

 

 

 

 


やぁ、すまないね。待たせちゃったかな?
少し話し込んでしまって居たから・・・。
・・・・ほっ、それは良かった。
連れに君の話をしたら、是非挨拶とお礼をしたいと言ってね。
・・・・さぁ、ダミアン挨拶をして?

 

 


こんにちは。ウルがお世話になったんでしょ?
レモネードご馳走になったって聞いたよ。
ありがとう、見ず知らずの方。

 

 


いやぁ、今日は暑かったのもあるが実に美味しいレモネードだった。
本当に有り難かったよ、改めて私からもお礼を。
ほんの気持ちだけれど・・良かったら貰ってくれ。
この国で通貨しての価値は無いが、質屋に持っていけば驚く値がつくはずだ。
・・・・・・え?要らないって?いや、・・・・そんな事言わずにっ
これは親切にしてもらったお礼なのだから・・!

 

 

なんで?なんで要らないの?金貨だよ??
これがあれば、たくさんブリオッシュを買えるでしょ?
貰っておきなよ?みんなこうすると喜ぶんだよ。
貴方もそうすればいいよ。

 

 

素直じゃないなぁ・・・お金は持ってて辛い物じゃないだろう?
もっとキレイな召し物も買えるし、もっと美味しいランチだって食べれる。
なのに何故要らないって言うんだよ?素直に貰っておけばいいよっ!

 

 

 


・・・・ダミアン、止めなさい。無理強いはいけないよ。
どうやら本当にこの方は”コレ”を必要としてないらしい。
それにこのお方が言う様に”必要な物はもう持っている”んだろう。

 

 


何それ・・・・・つまんない。昔のウルみたいだ。

 

 

こら、そんな失礼な事を言うんじゃない。
欲が無い方だっていらっしゃるのだから。
・・・・すまない、この子は見た目こそ成長したが中身は子供のままで。
どうもこういった、モラルの高い考えは理解出来ない様なんだ。

 

 

 

いや・・・・、まったく私とした事が・・・不躾な事をしてしまったな。
”恩を仇で返す”とは、まさに今の状況をさしているんだろう。申し訳ない・・・。
なら、貴方に合ったお礼をして差し上げたいが・・・
生憎”金貨”以外で差し上げられる物も無いし
な・・・。
・・・・え?私達の演奏を?あぁ、そんな事を所望していたんだね。
それなら近いうちに恩を返せそうだな。

 

 


貴方、俺たちの演奏を聞きたいの?ふふふっ、そう。そうなんだ!
今日は違う土地に行くけれど、またすぐにココに戻ってくるから
そうしたら聞きに来ればいいよっ、俺たちの演奏は最高だよっ。

 

 

 

ふふ、うん。それなら・・・そうだなぁ・・・次の満月の夜。
コウモリが山に帰って、月が出て、雲のたくさんある夜にココに来てくれ。
私達の演奏会に貴方を招待しよう。
その演奏で、是非私に恩を返させてくれ・・・・いいね?

 

 

嫌だ、なんて言わせないよ?だってウルのヴァイオリンは誰の耳も無視出来ない。
絶対貴方の耳も喜ぶはずだよ。これは絶対だ、絶対。

 

 


こら、ダミアン。あんまり興奮すると下品だぞ?
・・・・・ふふ、まぁこの子も貴方に歌声を披露する事を楽しみにしてるみたいだ。
じゃあ私達は馬車を調達しなければならない。そろそろ行くよ。
・・・・レモネード、本当に美味しかった。ありがとう。
あ、あと・・・・この後どうやら嵐が来るみたいだ。だから早く家に帰った方がいい。
・・・・・それじゃあまた、曇りの日の満月の夜に。

 

 


じゃーねー!絶対聞きにおいでよ!さようなら~~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

fin..........



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2011/08/05 宵闇の演奏家 Trackback() Comment(0)

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