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2024/04/20

語り屋と君:七本のリボン①

 

やぁ、こんにちは。




 

あぁ、そうだね。
君に会うのはとっても久々な気がするね。
いやね、最近さ・・君以外にもたくさんの人に呼ばれてね。
ちょっと忙しくしてたのさ。

 

 

 

 

 
 


 

え?こんな時代だから、だって?
あはは!何を言っているんだよ。
いつの時代だって、人はそう言うんだよ。
どんな時代であったって、人は何かに苦しんでるのさ。

 

 

 

ううん、どんなにたくさんの人に呼ばれても
僕はその人たち一人一人と対話しているし
もっとすごい事だって出来るから。
だから絶対にその相手を忘れやしないのさ。

 






もっとすごい事って何かって?
・・・企業秘密だよ。

 







まぁ、そう言わないで。
今日も君にお話を持ってきたんだ。
ほら、そこのベッドに腰掛けて。

 





とっておきの心地良いお話を用意したんだ。
君の寝顔を見るために。





 

じゃあ、お話を始めるよ?
目を閉じて、不思議な世界へご招待するよ。

 

 

 


*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

 

七つのリボン

 

 

ある所に神様を愛する少年が居た。
彼はその神様が大好きで、愛しくてたまらなかった。

 




 

その神は愛の神様だ。
彼はその神様に会った訳でもなかったし
実際にそんな神様が存在するかも解らなかった。
だけど、何故だか気付いた時には愛しくてたまらなかった。

 



 

 

だから何とかして、この愛を神様に届けたくて
毎日、来る日も来る日も
神様にどうやったら愛を届けられるかを考えていたんだ。

 



 

まず始めたのは、彼の周囲、彼に出来る限りの場所を
綺麗な花と、綺麗な景色で飾った。
まるで神様に大きなプレゼントを渡すみたいに。
だから彼のお隣さん達はみんな”とっても綺麗!”
そう言って彼を尋ねた。
だけど彼はお隣さん達の対応に追われてしまって
神様への愛を示す事が出来なくなってしまったんだ。

 

 





だけど日毎に募る想い。
お隣さんとお茶会をしていても神様の事を考えて
お風呂に入っていても神様の事を考えて
食事をしながら神様の事を考えて
眠った後も神様の夢を見た。

 

 





いつしか想いの容量は彼の小さな胸を破いてしまいそうだ。
苦しくて、切なくて、胸が痛くて仕方なかった。
だから何とかして、この愛を伝えなきゃいけないって
また別の方法を考える事にした。

 

 



 

そうして考えた末に生まれたのは”言葉”だった。
彼が考えた、神様に愛を届ける”愛の言葉”
もちろん彼の他は誰もその言葉を理解出来なかった。
隣同士に住んでいるあの子にも、向かいに住んでいるあの人にも
彼が何を言っているのかは解らなかった。





 

彼はすぐに孤独になってしまったけれど、彼は幸せだった。
もしかしたら神様が、この言葉を聞いて喜んでくれてるかも知れないし
この間みたいに他人に邪魔される事もなくなったし。
だから孤独であっても、寂しくはなかったのさ。

 

 





 

だけど、そんな満たされた気分もすぐに尽きちゃった。
言葉だけでは表現できない程、神様への愛が溢れてきたから。
だから彼はまた、新しい神様への愛情表現の方法を考えたんだ。

 

 

 


そうして考えた末に生まれたのは”歌”だった。
愛を伝える愛の言葉で、愛の歌を作ったのさ。
それは始め、不恰好な物だったけど
それでも彼は止めずに、毎日天に向けて歌ったのさ。
この歌が神様に届きますように、てね。







 


誰かに向けた、誰かへの愛で詰まった愛の歌は
そのうち”美しい歌”になっていき
彼が歌っただけで鳥たちがコーラスを奏でた。
彼の歌に共鳴するように、楽しそうに。






 


いつしかこの世で一番、美しい歌声は
言葉の通じなくなったお隣さんの心に響いた。
”お前の歌は世界一さ!”そんな風に褒められたりもした。
だけど彼はそんな事、どうでも良かったので
笑って誤魔化して、歌い続けた。

 





 

 

だけど、やっぱり足らなくなってしまう。
どんなに愛の歌を歌っても、どんどん愛が溜まっていって
胸が張り裂けそうに痛かった。





 

 

だから今度は”絵”を描いた。
神様の為に用意した、美しい景色をキャンパスに描いて
その想いが少しでも届くように、と願った。






 

 


だけどやっぱり胸はすぐに痛み始めた。
今度だけじゃない、その後も、そのまた次も。
結局何をやっても、彼の想いは募るばかりだった。

 





 

その頃には彼の周りはたくさんの”愛に溢れた物”で埋め尽くされた。
そんな天才の彼の名前は世界中に広がって
世界中の人は彼が生み出す”愛に溢れた物”を愛したんだ。











あんなに言葉が通じずに、孤独になっていた彼なのに
いつしか世界中の人気者さ。
どうにかして、彼の事が知りたかった世界中の人は
彼にしか話せなかった”神様へ捧げた愛の言葉”を学んで
どうにかして彼に近付こうとしたんだ。

 





 

 


彼は面倒だったから、そんな人々を適当にあしらった。
だけど人々は諦めなかったし、彼を独りにはしなかった。
彼が嫌がっても、遠くから見ていたし
彼が神様の為に作った物を、遠くから見に来たし。
それ程に彼の作り出すものは素晴らしくて、特別だった。

 






 

最初は遠くから見るだけ。
その次は近くから見たくなる。
その次は触ってみたくなる。
そしたら今度はそれが欲しくなって
いつしか自分の物にしたくなる。

 









人々は日毎そんな風に変わって行く。
彼の家を一人が訪れると、それを許容だと思って皆が押し寄せる。
触れてもいいよ、と誰かに言えば
やっぱりそれを許容だと思って、皆が触った。

 









 

だけど彼は変われなかった。
自分を良く言ってもらえる事には、快感を感じれる様になったし
神様の為だけに生み出した物を”素敵!”って言われる事も誇らしかった。
だけど・・・やっぱり何か違うって、そう思っていた。
これは全部神様の為の物
自分のでも皆のでもない・・・・・
神様の為の物だって思ってた。






 

 

ある日、気の弱い少年が彼に提案を持ち出した。
それは”その綺麗な絵を貸して欲しい”そんな提案だ。
気の弱い少年は、国にいる仲間にもその美しい絵を見せたかったんだ。
絵自体はたくさんあるし、1枚くらい良いだろうって考えていた。
だけど彼の答えは”ノー”だった。







 

気の弱い少年は肩を落として帰って行くのを
複雑な思いで見ていたけれど
きっとここで”イエス”と言えば
皆が色んな物を借りたがるんじゃないかって思ったんだ。
それが原因で、彼は苦しんでいたし
神様へのプレゼントなのに、持って行かれると困ったから
よくよく考えた末の答えだった。

 








 


だけど、そんな彼を皆は”心の狭い奴だ”と怒った。
気の弱い少年の話は瞬く間に世界中に広がって
彼はすっかり嫌われ者になってしまった。

 









 


だけど彼は特段気にしなかった。
元々独りだったんだし、彼の目的は変わっていなかったし、ね。
愛の神様に想いを届ける為だけに始めた事なんだから
それは元の形になっただけ。
だから、どちらかと言うと心底安心していたんだ。
誰にも邪魔される事無く、また神様へ愛を届けられる。
彼にとっては所詮”その程度”の出来事だった。

 



 


だけど、そんな彼の安寧は長く続かなかった。




 

 

ある日の朝、目を覚ましたら
彼の家の庭が燃えていた。
何事かと慌てた彼は庭に急いだが
すっかり火の海になっていて、結局彼はそれを見て過ごす他なかった。

 

 






次の日は彼の家の絵が切り裂かれていた。
あんなに美しかった絵はタダのクズゴミになって
彼の焼け爛れた庭で花吹雪の様に舞っていた。
この時も彼はただ、それを見て過ごす他なかった。

 

 





 

そんな悲しい事件が立て続けに起きて
彼はすっかり落胆してしまって
とうとう家から出る事を止めてしまった。
犯人は大よそ把握できたのだけれど
彼はだからと言って何かをしようとは思えなかった。

 






 

 

うん、そうだよね。
何かアクションを起こす他ないと・・・僕も思う。
復讐なり、抵抗なり・・・を、ね。
彼も、心では解っているんだ。
何かしなきゃいけない、守らなきゃいけないって。

 

 




 

じゃあ何故”何もしない”って答えに辿り着くか?
答えは簡単さ、彼は弱かったんだ。
確かに感情任せに抵抗するのも良いかも知れない。
だけど怪我をするのは痛いし、人を傷つけるのも怖いし。
武器を使えば彼にだって守ることは出来たけど
それは何か違う気がして、体が動かなかった。

 

 

 




この世界はね、悲しい事だけれど
力ある者が勝つ世界。
そして勝った者が全てを握れる世界だった。
だから彼は”世界一の人気者”から
”世界一のけちんぼ”になって
とうとう”世界一の臆病者”だと言われた。

 

 


 


世界一の臆病者に待っている物はなんだと思う?
・・・言いようの無い理不尽さ。
例えようのない理不尽が彼を待っていた。
家はとられて、住む場所も失った。
あんなにたくさんあった絵も、あんなに綺麗だった庭の花も
あんなに作った綺麗な召し物さえも。
全部、ぜんぶ他人の物になってしまった。

 

 



 

残ったのは彼の脳に残った愛の言葉と歌の旋律
そして彼の家の近くにあった”みすぼらしい森”だけ。
その森は彼が神様の為に作った”最初のプレゼント”
それ以外は全部奪われて、彼の物ではなくなってしまったのさ。

 

 

 




彼は落ち込んだよ。
「僕には強さが足りない」って。
奪う事を恐れる者は、奪われてしまうんだって。
物も、土地も、命でさえ。

 

 




 

だから毎日、みすぼらしい森の中で泣いた。
泣いていたって解決しないから
泣くのを止めたかった。
だけど涙が止まらないから
そんな惨めな自分を嫌いになった。

 

 




 

月が海に帰っても、太陽が海に帰っても・・・
彼は大きな木の下で、何日も何日も。
失くしてしまった物を想って泣き続け
神様に愛を届けられない自分を罵った。

 

 

 

 

何が欲しかった訳でもなく
ただ彼は神様へプレゼントしたかっただけなのに。



*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.




あれ・・・



ふふふ・・・・




眠ってしまったみたいだ。







ありがとう。
そんな風に僕の物語を聞いてくれて。









この続きはまた、次の夜にでも
話にこようかな・・・・








良い夢を。











next.....
 



 
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