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2024/11/22

記録師とあなた:名前のない青年①

ハロー、入っても大丈夫ですか?


こんにちは、初めまして。
あれ・・?その反応。
もしかして訪れたのが”語り屋”じゃなかった事が不満ですか?




あはは、そうですか。
それは良かった・・・てっきりガッカリさせたかと・・・。




あ、自己紹介をしましょうね。
私は記録師
ある者の記録をつける者です。
ある者・・・あなたはきっとその人物を知っているはず。


 

あはは、解らないですか?
それが誰なのか。



 

うんうん、そうですね。
人と言うモノは複雑に折り重なって成り立っているのです。
だから解らなくってもしょうがない。





 

えぇ、そうですよ。
今日はあなたに聞いていただきたい物語があるんです。





もしかしたら余計な物語かも知れない。
けれど私はそれをあなたに話す義務があるんです。




迷惑で無ければ少し・・・

 

不思議な青年のお話を聞いてもらえませんか。



 

もちろんお代はいただきません。
それが私の信条なので。



 

それでは・・・・物語を始めさせていただきます。





このお話は、この世ではない
不思議な国の、どこかで起こったお話です。






じっくり私の言葉に耳を傾けて下さいね・・・。

 


*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

 

名前のない青年

 


あなたは・・今までの人生の中で
何度”自分は一体誰なんだろう?”
そう疑問に思いましたか?








何故自分が自分に生まれてしまったのか。
毎日何食わぬ顔をして、自分を生きているけれど
ふと瞬間”どうしてだろう”と思った事は?




 


このお話の主人公は、日毎そう疑問に思う日々を過ごしていました。
思春期であった事もあって、彼は毎晩そう思っていました。

 





ランプを消した部屋、ベッドに転がって窓を見上げる。
眠りにつくまでのほんの数分の時
今日もふかふかの枕を片手で撫でながら。
月が真っ赤に地上を照らすもんだから、彼の部屋は同じく真っ赤に染まってしまって。
もちろん彼の肌も目も髪も
月の明るい赤に照らされて真っ赤な数分。





彼の周辺の人々は、夜が大嫌い。
真っ赤な月が不気味に見えるし、明るすぎて目に毒だからです。

 



だけど彼はその光が好きでした。
赤は”生きている色”だと思ったからです。
きっとこの色を考えた人は、人から流れる血を見て
この色を考えたんじゃないかと思うから
彼は赤い月が好きでした。
・・・・誰が何と言おうとも。

 


真っ赤に染まる彼の部屋で、彼はひとつ大きな溜め息を吐く。
”僕は一体何者なんだろう”
そんな時、彼を支配するのはこういった思考。
そして、この思考はいつもこう続きます。
”僕はなんの為にこうしているんだろう”
だけど心配しないで下さい。
彼は意味を見出したい訳ではないのです。
ただ・・・自分で納得したいだけなのです。

 



彼の住む国は私達の知っている世界ではありません。
真っ赤な月、こんな物は私達の世界に存在しませんよね?
彼の世界には他にも不思議な物がたくさんありました。




例えば・・・草は黒一色です。
だから木も山も、黒くて太陽が出ている昼間でも真っ黒。
森なんかに入ってしまったら、ランプがないと足元も見えません。
え・・・?それじゃあ光合成が出来ない?
あっはは!そうですよ?太陽の力は必要としないんです。
彼の世界ではね、太陽はただのランプです。
他に役割は無くて、人々がたまに目を休める為にある明かりです。
ほら、月は赤いと言ったでしょう?だから昼の間、太陽の光で目を癒すんです。



 

それに・・・彼自身もそうです。
彼は人間ではありません。
だからと言って他の”何か”であるわけでもありません。
ただそこに生まれて存在する生物のひとつ。
私達の世界の様に、生物に名をつける事がない世界なのです。







 

だから彼の感じている事は道理に適っているのです。
”自分は一体何者?”当たり前でしょう?
名前もついていないし、他の生き物にもそれがないのだから。
自分が自分である証明も出来ないし
他人が他人である証明もないのですから。

 





そうですね、不思議な不思議な・・・
私達の世界とはまったく違う世界です。
だけど彼らにとって、それは当たり前の事。
山が山なのと同じ、雲や空が雲や空なのと同じ。
私達が日常感じている、普通の事なのです。
だから彼らは何も疑問に感じないですし
彼のように”何故だろう”と考える事はありません。







 

だから彼は変わった青年でした。
いつも何に対しても”疑問”を持っていたのです。
口癖は”どうしてだろう”
もちろん彼を皆は”変な子”と思っていましたが
元々他人に興味が湧かない事もあってか
特に気にした事もありませんでした。
彼について他人が思う事なんて
せいぜい”変わった子”くらいでした。

 





ある日、彼の家のポストにある届け物が届きました。
彼らは基本、他人と触れ合う事はありません。
家族となるペアはいつの間にか出来上がって
いつの間にかそのペアに子供が生まれるのです。
決していがみ合っている訳ではありませんよ?
ですが互いに接触する文化がなかったのです。

 






だからポストに届け物がある事はあまりなく
あっても税金の支払いや、天候についての知らせ等
必要な情報を入手するためのツールでしかないのです。

 



 

だからその届け物に彼は”なんだろう?”
そう思ったけれど、何故か不思議とワクワクしたのです。
正しく言えば、彼はこの感情を経験していないので
胸のカラクリが跳ねている様な
不思議な感覚だったのです。
人によっては良くない予感を感じる様な異変でしたが
彼は何故かそれを”良い異変”だと感じ
そして恐れる事は無かったのです。









だから誰も見ていないのを確認すると
そのままその届け物を持って、部屋へと急いで戻りました。


 




ドアを後ろ手に閉めて、深呼吸をひとつすると
包みをそっと開けてみる事にしました。




 

中から出てきた物は・・・・一冊の絵本。
ですが、これは私達の世界の物であり、彼の世界には存在しない物でした。
だけど彼は臆することなく、その絵本をべたべたと触ってみます。
何度目かに触れた時、絵本の表紙が開く事に気付き
少年はおそるおそる絵本を開いてみたのです。





 

それは彼にとって”まったく新しい世界”のお話でした。
ううん、実際には文字は書いてありません。
私が見ても、ただそこには絵が描いてあるだけにしか見えません。
なのに彼は目をキラキラと輝かせて、目の前の絵を一生懸命見つめている。
不思議な事だけれど、彼には物語の内容が解るようで
ページをめくる度に喜んだり、悲しんだり、心配している様です。







 

彼は夢中でした。
そう厚くはない絵本を、何度も何度も繰り返しめくり、物語を見ました。
私達から見れば普通の絵本だけど、彼にとっては初めて見る世界です。
太陽はただのランプじゃない事、森は緑である事
生物には種類によって名前がある事





 

その世界のルールを見れば、彼自身が”人間”と言う生き物だという事。
そして人間は一人一人にまた違った名前を持ち、
他人同士で絆を結び、共に暮らすという事。
毎日食事を作ってくれる人を”ママ”と呼ぶこと。
毎日仕事をして帰ってくる人を”パパ”と呼ぶこと。
自分がよく食べるあの食べ物は”パイ”と呼ばれる物だという事。
そしてその食べ物をよく食べる自分はその食べ物を”好き”だという事。






 

その他にも、たくさんたくさん・・・・
同じ物もあれば、違う物もたくさん、たくさん。
彼の知らなかった事がそこには溢れていたのです。








 

だから何度も飽きる事無くその絵本を眺めました。
そして覚えた事は嬉しくて、”ママ”に語りました。
”ママとパパ”は自分に与えられた初めての名前を喜んでくれたので
彼はもっといっぱい、解らない事を知ろうと絵本を開きました。







 

どこの世界かは知らないけれど
同じ様な生き物の住むその国の話は彼にとって魔法のお話でした。
だって、毎日あんなに色んな事が解らなかったのに
この絵本の中の世界には、その答えがたくさん載っていたから。

 








みんな解らない事が普通だから気にも留めなかった。
彼はいつもそんなみんなに”なんでだろう”って、そう感じていたけど
みんな自分が着ている物が”服”だと教えれば喜んだし
”これはパン、こっちはランプ、これはうさぎ!”
そんな風に教えてやれば、みんなは疑うことなくそう呼んでくれたのです。




 

 

それがとても嬉しくて、彼はどんどん人々に語っていきました。
絵本から溢れ出る知識を、人々に伝えていきました。
彼はとても満ち足りた気分で日々を過ごしました。
なんだかやっと、自分で自分が納得できる存在になれた気がしたのです。

 

 



 

だから絵本の知識が絶えかけると、今度は人々に個人の名前を授ける事にしたのです。
絵本に残ったのは、人間に与えられた代表的な名前がいくつか。
足らない分は彼が気に入った言葉を使いました。
だから彼の街の人々のほとんどは
私達の世界では不思議だと感じてしまう名前ばかり。
ほら、あそこの老紳士は「楽器」さん
あそこの可憐なお嬢さんは「スプーン」さん
あっちの坊ちゃんは「お風呂」くん







だけど今まで個人を分ける名前を持たなかった人々は
初めて自分についた”自分だけの名前”に
とても喜んだし、気に入っていました。
そんな彼の頑張りがあって、彼の街の人々は
すっかり個人の名前で区別するようになりました。







そうしたら自然に人々は互いに触れ合う様になりました。
だって、嬉しいでしょう?
自分の名前を他人に呼んでもらえると・・・。
人々も例外ではなかったのです。
だから一気に互いの関係は変わっていきました。
仲間、友人、恋人、夫婦
彼もそんな事が嬉しくて、しょうがなかったのです。




 

*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.




・・・・っと
あら・・・どうしました?




おっとと、それはいけないですね。
いえ、私なら大丈夫。
また後日お伺いする事にしましょう。
あなたはどうか、その用事を大切に。



いえ、心配には及びませんよ。
私にはあなたに知ってもらいたい記録の続きがありますので。
必ずまたここを尋ねますから。




あはは、私が訪れる事にだって”意味”があるのですよ。
それに私は、語り屋の様に”気まぐれ”ではないので。
自分の使命には忠実なんですよ、これでも。


えぇ、約束をいたしましょうね。


それでは、また次の機会に。

 

 

 






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2011/07/04 記録師とあなた Trackback() Comment(0)

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