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コンコンコンッ!
君ー、語り屋だよー開けてくれないかい?
うーっ、すっかりずぶ濡れなっちゃった・・・。
ちょっとごめんね、そのタオルでまずはこの子を拭いてあげて?
あの雨の中・・・・やっぱりいつもの様に噴水に腰掛けて僕を待ってたみたい。
可哀想な事をしちゃったなぁ・・・・だから、お願いできる?
ふぅ、外はスゴイ大嵐だよ・・・・雨が本当に武器の様だ。
傘を貸してもらったけど、猫をだっこするのに手が足らなかったから
帰りには差さずにカバンに詰めて持ってきたんだ。
・・・・お陰でビショビショに戻っちゃった。ごめんね、君。
えっ、わざわざホットミルクを用意してくれてたの・・・・!?
うわぁ・・・君ってば本当に凄い・・・本当に気配りが上手なんだね。
他人が何を欲しているか、それを察するに長けているんだよ。
本当に感謝してる、ありがとう君。
あはは、猫もすっかり毛がふわふわに戻ったね。
猫君のご機嫌も、君の用意してくれたミルクですっかり直ったみたいだね。
全ては君のお陰だ・・・そんな君に、さっきの続きでも話そうか?
そうだね、服が乾くまで・・・雨が少し弱まるまで。
ひと時かもしれないけれど、双子の素敵な物語に身をゆだねよう。
さぁ、お話の再開だ・・・街に行った双子が大きな転機を迎える大事なお話。
ゆっくり心を休めながら、聞いてね。
*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.
「ねぇ、君たち!だ、大丈夫かい?頭を打ったかい?膝を擦り剥いた?
どれ・・・・見せてみなさい?さっき転んだのは・・・・こっちの君だね。」
そんな時、突然頭上から掛けられた言葉に驚いて見上げてみる。
真っ暗でよく見えないけれど、大きな黒い影を連れた大人の男の人だった。
抱き合ったままだった二人、なのに迷う素振りも見せずにタヴィスを見分けて声を掛けてきた。
その事に驚いて二人は、泣き腫らしたままの目をくるっと大きくさせた。
タヴィッシュが少し警戒を見せて、タヴィスを抱き寄せる。
だけど男は、腰を屈めてタヴィッシュにニコッと笑いかけて頭を撫でた。
「君の弟くん、少し膝を擦り剥いてるみたいだ。
俺は悪い人間じゃないよ、そこの新聞社で記事を書いてるジャーナリストだ。
こんな夜深い時間にここを通ったのも、事件の犯人を追っていたから。
少しだけ、そこの噴水に弟君を座らせてもらえるかな?膝を応急手当しよう。」
撫でられた手にビクッと大きく体を振るわせるタヴィッシュだったけど
男は出来る限りタウ達を怯えさせない様に気を遣ってみせる。
太陽はすっかり帰ったって言うのに、男の笑顔は夏の太陽に恋するひまわりの花の様で
極度の人見知りなタヴィッシュの警戒心までも溶かしてしまった。
タヴィスは男に”ありがとう、おじさん”と言って彼の手を借りた。
タヴィッシュはそんな二人を遠くで見ていたけれど、男に”おいで”と言われて、駆け足で二人の後を追いかけた。
「えっ、僕にぶつかった人・・・・人を殺したの・・・!?」
「・・・・・っ!?」
公園に置かれた大きくて綺麗な装飾の噴水の縁に座って
膝に滲む血を拭いてもらいながら、タヴィスは大きな声を上げた。
タヴィッシュは横に座ったまま、大きく目を見開いて息を飲んだ。
すると膝の高さに跪いていた男も大きく目を見開いて、その後すぐに細めて笑った。
「ふっはははは!君ら顔はそっくりだけど、まるで違うんだなぁ!
弟君は殺人鬼にぶつかられたって言うのに、まるで喜んでるみたいだけど
兄君は今にも気を失いそうなくらい、真っ青になってる。
面白いなぁ、君ら。あっははは、本当に愉快だ。」
「当たり前だろう?だって、事件なんて聞いたら・・・ワクワクしちゃう!」
「何呑気な事言ってるんだよ、タヴィス!!お前、本当に死んじゃうかも知れなかったのに・・・!
相手は人を殺しているんだよ!?ワクワクなんてしたら、罰当たりだ!」
「そ、そうだけど・・・・でもこんな体験もう出来ないよ?
僕ってば殺人鬼と遭遇して、生存した中の一人になったんだからっ!」
「そんなの喜んで良い事じゃないっ!お前にもしもの事があったら・・・っ」
「こーら、君ら?こんな時に喧嘩なんて不毛な事は止すんだ。
確かに”生き残った”事は良かったけれど、余所見をして走っていたら
いつかは怪我をして、取り返しつかない事になるかも知れない。
気をつけるんだよ?弟君。あまり兄君を心配かけるんじゃない、解ったね?」
また口喧嘩が始まる、そんな空気が漂った次の瞬間。
男は二人の会話の間に入って、そんな風に優しくたしなめた。
口では流暢に、二人の会話を割って入って話すけど
手元だってひと時も止まる事無く、テヴィスの膝にハンカチを巻いていく。
それは何だか、花屋さんがプレゼントを可愛く包装する、あの時の感じに見える。
二人はそんな男の手元を見ながら、まるで”魔法”の様な気さえした。
「ふむ・・・・これで良しっと。
どう?きつく巻いたから痛みは無いだろう?」
「うん、もう全然痛くないよ!」
「よし、じゃあ夜も遅い。二人をお家に送るよ?道を教えてくれる?」
「ありがとう、おじさん!ドイルのテーラーが僕らの家だよ。
おじさんは知ってる?僕らのお家。」
「おぉ、それは凄い偶然だ・・・俺のこのスーツはドイルの物だ。
もしかして、君らがあの有名な”合わせ鏡の双子”か?」
「うふふっ、そうだよ♪僕らちょっとした有名人なんだっ!」
「こりゃ驚いた・・・確かにうりふたつ、鏡を合わせて見てるみたいだなぁ!
なんて幸運・・・・、記事のネタに出来ないかな・・・・うーん・・・うん!
よし、なら送っていく道すがら、君たちにインタビューをお願いしたいんだけど
事前のアポイントは必要かな?”有名人さん”」
「えぇ!?僕らの記事を書いてくれるの?わーいっ!!ね、いいよね?ターヴィッシュ!」
「えっ・・・・えっと・・・・うん。」
「ふふふ、よっし!じゃあお家までお話して帰ろう!さぁ立ち上がって。出発だ!」
「おーーーーうっ!!」
噴水の縁から重い腰をあげるタヴィッシュ。
タヴィスがそっと手を繋いでやると、やっと顔を上げて小さく”うん”と頷いた。
男はそんな様子を少し心配そうに見ていたけれど
タヴィスがタヴィッシュの腕を引くようにこちらに来ると
またニコッと笑って、軽やかにドイルのテーラーを目指して歩き出した。
その後、道すがら・・・男とはたくさんの話をした。
男は中心街にある新聞社の記者で、名前はジリアン。
1年前のちょうど今頃に子供が”旅立ちの時”を迎えたパパだった事。
故郷は遠い他所の国で、ジルは単身赴任をしている事。
今日も最近街を騒がせている”殺人鬼”を追って、あの場所に居た事。
ジルは暗い夜道をランプで照らしながら、二人に次々と話を持ち出した。
タヴィスは初めて出会う、ジルの面白い話に大声を出して笑ったし
タヴィッシュだって時々ジルを見上げて、顔を伺う目がキラキラしていた。
もうお家はすぐそこ、そんな頃にタヴィスが”あっ”と小さく声を上げた。
「そういえばジル?なんで僕の事を弟だって解ったの?
皆僕らがただ黙っていると、どっちがどっちか解らないんだ。
もちろん僕が弟だなんて、そんな事言ったのはジルが初めてだよ。
どうして?何か魔法でも使ったの?この足を治してくれたみたいにさ!」
「ぶっ、あっははは!魔法なんて使わなくても・・・。
タヴィッシュがタヴィスを大事そうに抱えてた。タヴィスはそれにしがみ付いてた。
俺が声を掛けた瞬間、タヴィスは目を丸くして驚いただけだったけど
タヴィッシュは目を丸くした後、すぐに俺を射抜く程に睨んだ。
守ろう、守らなきゃって必死に見えて、すぐに”あぁこの子がお兄ちゃんだな”って思った。
ほとんど勝手な思い込みだったけど、当たって良かったよ。」
「えっ・・・・僕、そんな怖い顔してたの・・・?」
「うっそだ~!タヴィッシュは気が弱くて、いつもマンマのお尻とお友達なのにぃ~?」
「や、止めろよ!そういう事言うなって言ってるだろ!?」
「だーって本当の事じゃない?イライザさんの所には毎日行ってるのに
僕がいっつもマンマのお尻と仲良くしてるタヴィッシュを引っぺがしてるじゃないか」
「あっははは!!そうだなぁ~、兄君は少し人見知りだけど・・・聡明そうだ。
安心すればする程、弱虫になっちゃうけど・・・安心出来ない相手の前では頑張ってる。
マンマが居るから、兄君は自分の盾が必要ない事を知ってるんだなぁ。」
「うん~?それってどういう事?」
コツンコツンと軽く鳴る靴の音、この街自慢の美しい石畳の道。
青と緑の色から、気付けばとっくに赤と橙色に変わっていた。
お家まではもう少し・・・・この石畳が茶色一色になると、そこはもうドイルのテーラーだ。
それまでの時間を惜しむように、3人は会話の花を咲かせた。
ジルの言葉にテヴィスは不思議そうな顔して、繋いだ手をブンブンと振り回した。
興味の対象を必死に自分へ向かせようとする、子供ならではの可愛い仕草に
思わずジルは”ぷっ”と笑いを溢した。
「解らない?兄君は人見知りだけど、必死にそれと戦ってるのさ。
二人きりで居る時、兄君は少し変わらないかい?いつもとは違って、かっこよくならない?」
「あ、うん!かっこよくなるって言うか、かっこつけてる気がする~
パパの真似っこしてるみたいにかっこつけてるし、マンマみたいに口うるさくなるっ!」
「弟君、君は君で~・・・マンマやパパと一緒に居る時以上に、ワクワクしてないか?
二人で居るんだから、少しくらいオイタをしたって構わないだろう・・・と、思ってない?」
「うわっ・・・びっくりだなぁ。ジルは何でそんなに何でも解っちゃうの?
タヴィッシュと二人きりだとぉ~僕、何でもやっちゃっていいんだって思っちゃう!」
「本当だよ・・・そのお陰で僕は気が抜けなくなるんだ。
さっきだって、そのせいで危ない目に合った。」
相変わらず子供らしい無邪気さを隠しもしないタヴィス。
そんなタヴィスの横で、異様に落ち着いたタヴィッシュ。
ジルは何となく感じていた”自分の予感”が見事に”確信”に変わっていく様で愉快だった。
それは長年、悩み続けた超難問パズルの最後のピースをはめた時みたいな爽快感。
二人と話せば話すほど、何故だかその感覚は強くなっていって
ついつい大きな声を上げて笑ってしまう。
「あっははは!また始まったか?合わせ鏡なのは見た目だけだなぁ~本当。
そんなに正反対なんだったら、二人セットで家の会社に欲しいもんだ!」
「え・・・・っ?」
「えっ!?僕らをジルの新聞社に??」
「君ら、さっき言ってただろう?来週に”旅立ちの時”を迎えると。
その為に街の中心で今日は職を探していた・・・ってさ?
君らは俺が思うに・・・・どっちも新聞屋に向いているよ。」
ジルが提案した言葉に、思わず驚きの表情を見せる二人。
びっくりしたまま少しの間、歩めた足を止めてしまう。
そこは石畳が茶色に変わる境界線・・・・あと少しでテーラーに着く所だった。
驚いたまま、あたふたするタヴィッシュと、ジルの手をを思いっきり引っ張って、目をキラキラ輝かせるタヴィス。
その様子を見たって、ジルは自分の提案が正しいって思えた。
だから二人にしっかり意図が伝わるように、わざわざ腰を屈めて二人に話した。
「まずはタヴィス。君は兄君と一緒に居ると更に自由になれる。
縦横無尽に駆け回り、勇気もあって恐れを厭わない。
興味の対象をコロコロと変えて、ちょっとした事でも真意を追求したくなる。
だけど、それを素直にすぐ飲み込もうとするだろう?疑いもせずに。
そこでタヴィッシュの出番だ。君は弟君の好奇心の対象をしっかり見極めようとしてる。
それが善か悪か、危険は有るのか無いのか、それは正しいのか間違っているのか。
表面じゃなく、色んな角度で・・・ううん、事の芯まで見極めようと、いつも目を見張っている。
これはね、記者にとって大事な才能のひとつなんだよ?
好奇心と勇気、そして疑心と的確な判断力。君らが片方づつ持った才能さ。」
同じ顔の二人の肩を、片方づつポンと叩いて語りかける。
同じ目線になったジルの瞳は、ランプの淡い色に照らされて中にひまわりが咲いているみたいだった。
二人はその時だけ、じっとジルの瞳を見つめた。
ううん、もしかしたら実際には映していただけだったかも知れない。
だってジルの言う事に随分と夢中だったから。
たった数十分で、こんなに自分達の”違い”を褒めてくれた人は初めてだった。
自分達さえ、その”違い”が大きくなっていく事を恐れていたのに
ジルは記者という仕事を通じて、二人の違いを肯定してくれたのだから。
「あ・・・あー・・・・何だ、そのぉー・・・君らに希望がないのかと思って、出過ぎた事を言ったかも知れないなぁ。
もし明日、もしくはその次の日・・・”旅立ちの時”にふさわしいピッタリの職を見つけられたなら話は別だけど
見つけられず、記者という仕事に興味があったのなら・・・俺は全力で二人をバックアップしたいって思ってね。
うちの社は長年”旅立ちの時”を迎える者が居なくて困っていたし・・・」
ジルは呆然とする二人の反応に少しだけ戸惑っていた。
だってジルの予想では、タヴィスあたりが”わーい!”なんて喜んでくれるはずだったから。
だけど実際には、あんなに違った反応を見せていた二人がまったく同じ反応をしてた。
口をだらしなく開けたまま、瞬きを忘れてしまって。
悪い事をしてしまったかな?なんて、ジルはちょっとだけ不安になっていた。
ちょうど1年前の今頃、ジルの娘は”異国の靴屋さん”に旅立った。
だけどそれまでの期間、娘は散々自分の個性を活かせる職を見つける事に苦悩した。
ジルはその頃もこの街で単身赴任をしていて、結局娘の悩みに”言葉”でしか手助け出来なかった。
娘は記者にするには大人しすぎるし、向いていなかったのもあるけれど。
そうでなくても後悔をしていたんだ・・・パパなのに、力添えが出来なかった事を。
ううん、実際はどこの親もそう思っていた。ジルだけではなかった。
愛しい我が子が一世一代の決断を下す日、そして本当の意味で大人になる準備の日。
なのに親は”自らの子”であるが故に、深くは干渉せず見守る他ない日。
じれったくて、歯痒くて、一番心が窮屈になる。
だからいつか自分が、他所の子の”旅立ちの時”を手助けしよう。
そんな風に思って、その難局をジルなりに乗り越えたんだ。
だからかな?つい出過ぎた真似をして、知り合ったばかりの二人に干渉してしまった。
長い沈黙が永遠に続く気さえした。相変わらずキョトンとしてる二人。
ジルでさえ、それまでの私情があったから・・・どうしていいか解らなかった。
だけどそこに一際明るい光が射して、それと同時にキーッとドアが鳴く音が響いた。
それと同時に真っ青な顔をして、スカートをあられもなく捲し上げたマダムが飛び出してくる。
後ろから彼女を呼び止める腕が見えて、マダムは大きな声を上げた。
「タウ!!あ、あなた止めて、私どうしても心配なのっ!!放してちょうだいっ!!」
「だめだっ!あの子達を信じると誓っただろう!?男の子だ、あの子達なら平気さ!
いつまでも子供扱いしてはいけない・・・・っ!」
タウーーーー。その名前を聞いた瞬間、目の前の二人の目が変わった気がした。
ジルはそんな様子を見て”あぁ、あのマダム・・・そういえばキルシュだ”と思い出した。
すっかり血相を変えて、取り乱しているキルシュを止めようとドイルが店のドアから半身を見せる。
懐かしい声、もう10年以上聞いていなかった懐かしい声。
ジルは胸がジンと熱くなるのを、気にしないようにして目の前の二人に笑いかけた。
「おっと・・・お二人さん。どうやら両親が心配しているみたいだ。
さぁ、この話はここでおしまい・・・・両親の所に行こう。」
そう言って立ち上がると、放心したままの二人の背中を押しながら両親に声を掛けるジル。
キルシュはハッと目を見開くと、スカートの裾が床に着くのも厭わずにタウ達に駆け寄った。
ドイルはその後を慌てて追うと、声の主に驚いて声を弾ませた。
頭上で繰り広げられる、大人のそれぞれのやり取りをタウ達はぼうっと見ていた。
マンマが泣いて二人を抱き締める、金具を器具で焼くときの独特な匂いがした。
心がホロっと崩れる感覚がして、二人は思わず声を上げて泣いた。
さっきの出来事が怖かったのもあったけど、二人は漸く自分達が自分達の個を認められた気がしていて嬉しかった。
言葉に上手く出来なかったから、大人たちは揃って慰めたけど・・・
本当の涙の理由は二人にしか解らなかった。
それからマンマの小言が延々続いた。だけどそれをジルが諌めてくれた。
お風呂に入って、ご飯を食べて、それから二人は部屋のベッドに入った。
ご飯を食べてる間に聞いた、大人たちの話によれば・・・
ジルとパパとマンマは昔、お友達だったらしい。
パパが”旅立ちの時”を迎え、このテーラーに来たのが22年前。
ジルが”旅立ちの時”を迎えて、この地に来たのも22年前の事で
働いて稼いだ最初のお金で、スーツを新調した事が”二人の出会い”だったそうだ。
その時、パパの師匠が仕立ててくれると言ったが、ジルは敢えてパパに頼んだ。
同じ年に同じ”旅立ちの時”を迎えた、パパを応援したくって。
パパはそれが初めての”お仕事”だったから、必死で頑張ったそうだ。
暇があればジルの体にメジャーを巻いて、記者として立派に見えるデザインを考えた。
そうしてる内に色んな話をして、二人はいつしか親友になっていた。
仕立て屋と新聞屋、ジャンルは違うけれど・・・きっと一番になろうって誓い合ってたそうだ。
パパがテーラーで働き出してから5年後、マンマが”旅立ちの時”を迎えてテーラーに来た。
ジルとパパはマンマとすぐに仲良くなって、よく3人でお茶をしていたらしい。
皆が皆、支え合ったり時には喧嘩したりして、いつも一緒だったそうだ。
でもパパとマンマが恋に落ち、いつしかジルとは疎遠になってしまったらしい。
ジルが来なくなった事を二人も憂いでいたけど、師匠が隠居を控えてた時期だったもんだから
その準備に追われて忙しくしている内に気にしないようにしたそうだ。
その後一度、20歳を過ぎた頃にヒョイとテーラーを訪れて、スーツを新調していったみたいだけど
その後は一度も姿を現さなかったらしい。
ジルが何故、テーラーを度々訪れなくなったかは、話の中で語られる事は無かったけれど・・・
タウ達は何となく、その理由が解る気がして面白かった。
「ねぇ、タヴィス?ジルの提案どう思う?」
ランプを消した真っ暗闇で、タヴィッシュは目の前にある同じ顔に声を掛けた。
視界にはお互い、お互いの顔しか見えない程に近い距離で。
うん?と小さく聞き返して、すぐにタヴィスは顔を綻ばせた。
「ジルが言ってただろう?ご飯の時に、さ。
記者として取材を二人でして、それを文字に起こすのはタヴィッシュ。
そしてそれを街に届けるのは僕・・・・それってスゴイと思わない?」
嬉しそうにニコニコして、タヴィスは当然の様に言った。
タヴィッシュは相変わらず、少し心配性な面がある。
”うーん”と唸って見せて、考えるふりをしている。
だけどタヴィスには解っていたから、少しだけ面白かった。
だって、こうやって考えるふりをしているタヴィッシュはきっと既に答えを出している。
ただ素直に答えを出すのが怖くて、タヴィスの”勢い”を欲しているんだ。
だからタヴィスは、自分と同じ顔についた可愛らしい小さな鼻をツンと摘んで笑った。
「何だよぉ?初めて僕らの”違い”を活かせる仕事に出会えたのに・・・ここでまた足踏みするの?
ジルは良い人だし、パパやマンマもこの話を喜んでくれてるだろう?」
「・・・・・・うん。そうだね・・・・・。」
「それに記者だなんて、なんだかカッコよくない?
事件の真相を追って、悪に立ち向かうんだっ!隠された真実を見つけて正しく伝えるっ!
まるでヒーローみたいじゃないかっ♪僕ってかっこいい~~♪」
「そんな華やかな事ばかりじゃないよ・・・危険だっていっぱいあるだろう?
今日みたいに・・・殺人鬼を追う事だってあるんだ。・・・タヴィスは怖くないのか?」
「う~ん・・・怖くないって言ったら嘘だけど・・・・
僕はタヴィッシュと離れるのが怖い。
あ、あとぉ~・・・本当はどちらかが無理して、どちらかに合わせて疲れちゃうのも怖い。
だから!だからジルが言ってくれた事が嬉しいよ!
僕らは離れず、尚且つ僕らのままで仕事が出来るんだものっ!」
タヴィスがタヴィッシュの前髪をいじって、自分に言い聞かせるようにそう言う。
タヴィッシュはこんな風に、背中を押してくれるタヴィスの言葉が好き。
だから、少し恥ずかしそうにはにかんで、首を緩く縦に振った。
「うん・・・・僕もタヴィスと同じ気持ちだよ。
ずっと一緒に居られて、それで居てどちらも自分で居られるのが良いよ。
だって僕、タヴィスの事が大好きだから。・・・僕と同じ顔なのに、強いタヴィスが好きだよ。
・・・勇敢で、好奇心に溢れてて、人が大好きなタヴィスが大好きだ・・・。」
「僕だって!!僕と同じ顔なのに、賢いタヴィッシュが大好きだよ!
弱虫で、マンマのお尻とお友達でも・・・そんなタヴィッシュが可愛いし
僕と二人で居るときの偉そうなタヴィッシュもかっこいいし!
全部反対なタヴィッシュが大好き・・・違うから大好きだよ、タヴィッシュ」
一人用のベッドに、9歳の男の子が二人横になるとやっぱり狭かった。
だからいつも二人は抱き合わせて、小さくまとまって眠っている。
もうひとつのベッドは空っぽのままだけど、二人はいつまでもこうしてたいと願った。
二人はずっと一緒、互いに無い物をそれぞれが持ち合わせてて
それを活かしながら二人で一つだった。
いつまでもそんな風でいちゃいけないって、言う人も居るだろうけれど
彼らはそれを実現する為に努力を惜しまないつもり。
依存?そんな生暖かい物なんかじゃないよ。
二人は一緒に生きていく為に、わざと難しい道を選択したんだよ。
そう・・・・この小さなベッドに無理やり眠っているみたいに・・・それを選んだんだ。
二人は目を伏せて、互いに同じ事を思った。
明日、隣のお家の寝ぼすけな鶏が鳴いたら・・・急いで起きて、街に行こうって。
そして新聞社にジルを訪ねるんだ。”旅立ちの時”をここで迎える、と。
そしたらジルはきっと喜んで、歓迎してくれるだろう。
そしたらすぐに帰ってきて、マンマとパパに報告をするんだ。
マンマとパパの事だから、きっとびっくりして親戚中に手紙を書く。
そしてその日はきっとパーティーになる。
明日は忙しい一日になる、二人はそんな風に思って眠りについた。
安らかで、希望に満ちた笑みを溢しながら・・・・ね。
合わせ鏡の双子は、タウという同じ愛称を持っていた。
同じ顔に同じ髪型、色も同じで癖も同じ。声も同じで、歯並びだって一緒。
背丈も同じで格好も同じ、何一つ変わらない鏡の中に居る双子。
だけどほとんどの人は知らない、二人がとっても素晴らしい個性の持ち主だって言う事を。
”旅立ちの時”それはその国に古くから伝わる風習のひとつ。
まだ幼い10才の子供は、一生を過ごす為の職業を見つけて就職をする。
それは酷で居て、何百年もの間守られた行事。
他の国では”子供にそんな選択をさせては可哀想”だなんて言われているけれど
この国では子供がミスを犯した事は無かった。
それは何故か君には解る?・・・・・・・・その理由はこうだ。
”子供の自ら出した選択を、大人が全力で見守っていた”からだよ。
だからその職業に就いた自分の選択を、間違っていたと子供が感じない。
失敗して悔しい思いをしても、周りの先輩は彼らの成長を願い動いてくれるからさ。
自分達がそうであった様に、子供達に接してやれるから。
だからきっと、あの二人も大丈夫。師匠と一緒に二人は個性をどんどん伸ばしていくさ。
顔や声はきっと同じままだけど、きっと何かが良い方向に進んでいくさ。
変わった風習を持った国、それがタウ達の故郷。
そんな平和で面白い国で、タウ達の人生が大きく動き出した運命の話。
合わせ鏡の双子が、それぞれに自分を意識して、尊重し合うきっかけになった物語だ。
*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.
ふぅ~~~っ、ここでお話はおしまいだよ。
さぁ、あの二人の物語はどうだった?
ふふふ、そう・・・こんなキッカケがあってあの二人は幼いながらに職を持ってる。
今じゃすっかり立派な・・・いや、まぁ・・・立派と言うのは言い過ぎだけど
”それなり”の新聞屋になっているよね?
この街を訪れるのも、取材だったり新聞を運んだりしてるからだけど・・・
最近少し余裕が出てきたのか、最初にも話した通り
ヨエルとお喋りに花を咲かせる事もあるようだね。
タヴィスは相変わらずだけど、タヴィッシュはこの頃に比べてしっかりしたなぁ。
今でも人見知りで、必要最小限のことしか関わらないみたいだけど・・・。
少なくともタヴィスのパパとマンマの役割はこなしているみたいだよ。
あははっ、君と会った少ない時間でも・・・そんなに明確に違ってたのかい?
うんうん・・きっと二人はジルに出会って、あの仕事に出会って良かったんだね。
でも忘れちゃいけないよ?その選択をしたのも、そして職に就いた後の努力も
きっと二人にしか解らない、良かった事のひとつだって事を、ね?
でも確かに・・・君が言う様に彼らは本当に良く似てる。
僕も未だに見間違えるし、彼らも僕をからかって時々中身を入れ替えたみたいに真似っこするけど
そんな時は”タウ、おいたはいけないな”って鼻を摘んでみるんだ。
するとね、タヴィスはびっくりして声を上げる。
だけどタヴィッシュは目をより目にして、じっと声を飲むんだ。
ふふふ、悪戯には悪戯で返すのが一番さ。面白いから、機会があったらやってみて?
あ、本当・・・お話のラストを見計らったみたいに雨が止んだね。
しかも僕の服もすっかりカラカラだ。
猫もそろそろ飽きてきて、すっかり気が散ってしまったみたいだし
そろそろ出掛ける事にしようかな?
じゃあ、今日は本当にありがとう。
何枚もタオルを使ってしまって、悪かったなぁ・・・。
うん?・・・いつものお礼だって?・・・ふふふ、君がそう言うのなら有り難く受け取っておくね。
それじゃあ・・・最後に僕から君にメッセージを送るよ。
大事な相手に依存してしまう、それって悪い事だろうか?
僕はそれを違うんじゃないかって思うよ。
悪いのは、依存する事じゃなくって、その先にある縋る思いだ。
他人と共に在る事は、難しい選択。
互いが惹き合ってるだけでは叶わない物。
自分を押し殺してもダメ、だけど押し付けあってもダメ。
個々が必ず、その間にある事を忘れてはいけないと思うよ。
そしてその個々を、大切に伸ばしていけたのなら・・・とっても幸せな事だと思う。
大事な相手を良く観察して?そして自分を良く観察してみて?
何が一緒で、何が違う?どれが君にあって、どれが君に無い?
他人が結びつく時、必ずそこにある物だから。だからそこから目を逸らさないで居てね。
そして互いが互いであって、共に在る事に努力を惜しまないで。
そうすれば必ず、いい方向に事が進んでいくはずさ。
君にとって、大事な人との関係が
タヴィスとタヴィッシュの様に、実り多い物になりますように。
祈りを込めて、語り屋より。
それじゃあ今日も、良い夢を。
Fin・・・・・・・・・・・