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ある日の青い猫の広場
「んでぇ~黒い服はシスターみたいなんだって!それで、なんかすっごーくキレイで
女みたいだったらしくってぇ、洗濯屋のおっちゃんなんて”あんな別嬪見た事ねぇ!”って
すっごーく大興奮してたんだよぉ~あ、そしたらね?
その後ろで話を聞いてた奥さんが怒っちゃってぇ~」
「・・・・・あ~、なぁタヴィス。そんな説明じゃ全然解んないんだけど・・・。
お前の説明、ふわふわし過ぎ!おい、タヴィッシュ。何かメモみたいなのある?」
「うん、聞き込みで実際彼らを目撃した人達に、二人の特徴を描いてもらったよ。
皆、それぞれ記憶が曖昧で、描いた物は微妙に違うんだけど・・・
よく見ると、所々特徴が一致している所があるんだ。」
久々の再会で、すっかり盛り上がってしまったけれど
ヨエルが話の流れを上手く変えてくれて、目的に戻る事が出来た。
今はようやく、記事に載せる為の”宵闇の演奏家”達の似顔絵に取り掛かった所。
さっきからタヴィスが、聞き込みで得た情報をヨエルに伝えているんだけど・・・
正直僕が聞いていても・・・タヴィスの説明は”上手”とは言えなかった。
そんな時はやっぱりタヴィッシュが一役買って出る。
・・・・・この双子は本当に、良い意味で一緒に生まれてきたんだろう。
「ふーむ・・・・確かに全部、見事に描いてる物が違うなぁ。
・・・・お、でも一緒のところも何個かあるね。顔の雰囲気って、解るか?」
「えっと、一応共通している証言を合わせればいけると思うよ。」
「ふむふむ・・・うーむ・・・。よし、ある程度雰囲気は掴めた!
じゃあタヴィッシュ、俺が時々質問するから、お前はその情報から適切に答えて?」
「うん、解ったよ。僕は証言をまとめたメモを見ながら答える。」
「ねぇ、ヨエル?僕は?僕は何やったら良い!?」
「・・・・・・お前は取り敢えず語り屋に、お菓子でも貰って黙っとけ。」
「・・・・・・ぶぅ・・・・。」
どうやらこういった作業は、タヴィッシュの方が向いているみたいで
ヨエルに軽くあしらわれたタヴィスが不貞腐れてしまう。
彼のやる気はいつも漲っていて、時々こんな風に行き場を失ってしまうんだろう。
だからと言って、タヴィスが間に入ると・・・・正直、こじれてしまうだろうし。
だから僕は、とびっきりの笑顔をタヴィスに向けて
片手で”おいでおいで”と彼を招き寄せる。
彼には、”彼に似合った仕事”を与える事にしよう。
皆が仕事に取り掛かってしまったけれど、僕はそれを見守るしか出来なかったから
僕にとっては、タヴィスが手持ち無沙汰になるのも大歓迎さ。
「僕も今は何も出来ないし、一人で待ってて少し寂しかったんだ。
タヴィス、僕の”荷物”を軽くするお手伝い、してくれるかな?」
「うわぁ、良いの?じゃあこのフィナンシェ貰って良いっ!?」
「あぁ、たくさん食べてくれていいよ。」
本格的に集中し始めた二人から、少し離れた場所で僕らは座った。
タヴィスは嬉しそうにフィナンシェを頬張って、蕩ける様な笑みを浮かべている。
僕はそんなタヴィスを見ては、ホッと息をついた。
頭上に広がる空は、夏の空に相応しく千切った綿飴の雲が浮かんでいる。
この街は都会なのに建物が低く、空が大きくて・・・とってもキレイだ。
人と言う生き物は大勢集まると、何故だかとても贅沢になってしまう。
競い合う様に大きな塔を立て、我先にと空の上を目指したがって
そんな人がたくさん居れば居るほど・・・街の空は小さく狭くなっていくものさ。
だから都会であるこの街が、こんな風に自然とあり続ける様は魅力的だ。
昔、この街で出会った商人のお爺さんが言っていたんだ。
”この街は神様に愛された猫の住む土地
その猫の望んだ形を保って、在り続ける素晴らしい街さ”・・・と。
だから色んな世界から、色んな人が訪れて、この町を愛していくのだと。
もしかしたらその猫は、人間と動物、そして自然が大好きだったのかも知れない。
全部大好きで、だから全部失いたくなくて、こんな形で願ったのかも知れない。
そんな街だからこそ、僕もヨエルもタウ達もココに集まるし
もしかしたら”宵闇の演奏家”もココで演奏会を開く事にしたのかも知れない。
僕はお菓子でいっぱいになったお腹をさすりながら
この都会の大きく開かれた空を見上げて、そんな事を思った。
「・・・・っと、名前はこっちがアーリックだろ?
んで、こっちの坊ちゃんがダミアンだっけ?
タヴィッシュ~、綴りってどう書くの?」
「えっとね・・・アーリックはUとRとIとC。
ダミアンは・・・・」
そろそろ描き上がる頃だろうか、ヨエル達の会話が絵の完成を知らせているみたいだ。
そのサインは、横で相変わらず美味しそうにお菓子を頬張っていた、タヴィスにも伝わったみたい。
僕の方をチラッと伺う様にして見ると、クリームのついた唇を半月型に緩ませた。
「ね、語り屋。ヨエル、もう絵を描き終えちゃったのかな?」
「うん、恐らくね。・・・さぁ、このままタヴィスを床に座らせていると
帰る頃には林檎の様に丸々になってしまいそうだし
僕らもヨエル達の所に戻ろうか?」
僕がそう言うと、タヴィスは手に持っていた残りのビスコッティを急いで口に放り込んだ。
この待ち時間でタヴィスは素晴らしい働きを見せ、僕のお菓子袋はすっかり小さくなっていた。
僕がぼうっと色んな空想をしていたせいで、きっとお腹いっぱいだろう。
”ジルにまた怒られちゃうなぁ”僕はそんな風に危惧しているのに
肝心のタヴィスは僕に向かって、ニカッと真っ白な歯を見せて笑いかける。
そんなタヴィスの屈託ない笑顔を見ながら、思わず僕まで笑いがこみ上げてしまった。
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僕らが2人と合流すると、早速ヨエルが僕に描いた絵を渡してくれた。
僕がその絵をチラっと見ている隙に、タヴィッシュがタヴィスの唇についたままのクリームを見つけ
それを合図にした様に、ヨエルがタヴィスを責めた。
”人が一生懸命働いてる時に”とヨエルが言えば
”ヨエルがお菓子食って黙っとけって言ったんじゃないか!”とタヴィスが反論し
”どっちもどっちじゃないかな”なんてタヴィッシュが二人を宥めていた。
・・・・もしかしたら、燃料を投下しただけかも知れないけれど。
僕は騒がしい3人を横目に見て、もう少しじっくり絵を見てみる。
噴水のオブジェを照らす、ライトの光が一番強く当たる場所に座って
改めて2枚の絵を横に並べて、その姿を脳に焼き付けようと思った。
1枚目の少年は、漆黒の髪の色をしていた。
ピッピの髪も黒いけれど、完全に異種の物。
その違いを例えるなら、ピッピの髪は「聖夜」この少年の髪は「暗闇」
そして驚いたのは瞳の色・・・色自体は何の変哲もない”赤色”なのだけど
彼の目の色は”鮮やか”過ぎて、色んな世界を旅した僕にとっても新鮮だった。
2枚目の青年は、美しいサファイアの様な目が印象的だ。
色が限りなく薄くて、瞳孔だけが黒々とやけに目立っていた。
淡く緩めた口元は男らしく、それでいて高貴な雰囲気を持っていて
物語に出てくる”勇敢な王子様”は、彼の様な容姿をしているんじゃないかと思った。
「それにしてもさ、一応描いてはみたけど・・・
この中の4人共・・・そいつらを実際に見てないんじゃ・・・
情報として不確か過ぎないかな?本当にそんな感じなのか解らないし・・・。」
僕がヨエルの絵に集中していたら、いつの間にやらじゃれ合いを終えたヨエルがそう言う。
タウ達はそんなヨエルの言葉に、難しそうな顔をして”うーん”と唸った。
僕はそんな二人から視線を移し、再び手の中に収まるヨエルの絵に戻す。
確かにヨエルの言う通り、よく描けているし絵としての欠点はないけれど・・・
実際僕らが2人を見た訳ではないから、似顔絵としては不十分だ。
それに、もしこの絵の二人が実際の姿と瓜二つだったとしても
あまり印象の良くない”宵闇の演奏家”として新聞に掲載するのは、どうだろうか。
「そうだよね・・・本当に噂通り、悪い人達だとは限らないんだよね・・・。」
ヨエルの言葉にタヴィッシュが応える。
気落ちした表情を見れば、タヴィッシュもまた
この二人を記事にするには時期早々だと感じている事が伺えた。
「うん、実際そうなんだよねぇ・・・。
甚大な被害が出たとなったら、それこそ記事にするにも手遅れだけど
下手に警鐘を鳴らして、街の人間を怖がらせるのも違う気がする。
せっかく描いたけどさ・・・新聞って、事実を正確に伝える物だろ?
これはやっぱり・・・・・」
そう言って、僕の手の中に収まる二人の絵に手を伸ばすヨエル。
僕は少し躊躇った物の、そんなヨエルの手を制止して言葉を掛ける。
「ねぇ、ヨエル。それにタヴィスとタヴィッシュ。
この絵を一旦、僕に預けてもらえないかな?
そこのキャンディショップの店主がね、昨日演奏会に行ったって言うし
もしかしたら僕の知り合いで、この二人を見かけた人が居るかも知れないし。
暫くこの絵を持って、聞き込みでもしようかなって思ってるんだけど。
君たちの意見は・・・・どうかな?」
「はぁ~?なんだ、タウ達の真似っこでもするの?
語り屋も本当、物好きだよなぁ~」
僕の発言に、ヨエルは軽く笑いながらそんな風に言った。
僕はそんなヨエルに、とびっきりの笑顔を向けて
タヴィスとタヴィッシュの答えを待った。
「えっと・・・まぁ、僕らより語り屋さんの方が色んな所に知り合いが居るし・・・
そうして貰えると凄く助かるんですけど・・・・。」
「語り屋は聞き込み係、すごく似合いそう!うふふ、じゃあさ
語り屋は僕らの”助手”って事??」
「こ、こら。タヴィス!目上の方に失礼だよっ」
「うふふ、そうだね・・・僕、実は記者って仕事に憧れてたんだ。
でもほら・・・・僕って物忘れが激しいし、普段なら無理だけど・・・
今回はヨエルの”素敵な絵”を持っているし、上手くいくんじゃないかって思うんだ。
ね、タヴィッシュ?僕を君たちの助手にしてもらって良いかな?」
「僕なら歓迎だよっ!・・・・タヴィッシュは反対なの?」
「え!?え・・・っと、別に反対とか・・・そんなんじゃないけど・・・。」
「なら決定!ね、ヨエルもそれで良いでしょう?」
自分の助手が出来る事が、そんなに嬉しかったのか
タヴィスは一層興奮した様子で二人にそう言って、ピョンピョン跳ねていた。
タヴィッシュは少し納得がいかない様な表情をしていたけれど
一応は困った顔で、こちらを見て微笑んでくれた。
僕はそんなタヴィッシュに笑い返すと、今度は反対側のヨエルの顔色を伺った。
ヨエルはどこかに視線を漂わせて、ただずーっと”うーん”と唸っていた。
・・・どうやらヨエルはあまり、気が進まない様だ。
別にフラフラしている訳では無いけれど、ヨエルの見つめる視点が解らない。
だから僕は、そんなヨエルの顔を覗き込むようにして見つめた。
ヨエルの視点を上手く捉えることが出来れば、彼の”気持ち”が解る気がしたから。
何が不安なのか、何を危惧してるのか、何を思ってるのか。
言葉にしない、ヨエルの言葉を見たくて。
すると漂わせていた視点が、ぴったりと僕に留まって
その瞬間、僕を見るヨエルの目が大きく見開かれ、すぐに機嫌が悪そうに顰められた。
僕はそんなヨエルが面白くて、ヨエルの逸らされる視線を追う様にして移動すると
ヨエルは意地になって一度”あぁぁぁ”と言葉にならない声を上げた。
顔を真っ赤にして、困っているヨエルが可愛くて仕方なくって
僕はこんな時だと言うのに、溶けそうな程顔を綻ばせてしまう。
タヴィスとタヴィッシュは、そんな僕らを少し遠い目をして見ていた。
あれはきっと”良い大人が何やってるんだよ”っと言いたかった目。
僕よりも、よっぽど大人びた二人の記者の目だった。
その後、僕の行動に嫌気が差したヨエルは、渋々ながらOKを出してくれた。
僕はその答えをしっかり両耳に入れると、ヨエルとタウ達にお礼を言った。
大切な絵は、僕のバッグに仕舞って、4人と一緒に青の猫の広場を去った。
帰りながら僕は3人にお菓子を振舞いながら、色々と考えていた。
タヴィッシュは”ジルに怒られちゃう”と言っていたけど、やたらポルボロンを食べていた。
あぁ・・・明日、また買い足しに行かないと僕の分が足らないな。
まぁいいや、明日はこの絵を店主に見せたいし、”あの子”にも話を聞きたい。
僕はどうしても・・・あの”宵闇の演奏家”に会いたくてたまらないのだから。
僕は色んな世界で”語り屋”と呼んでもらえているけれど
僕を初めて見た世界の人はきっと、僕を色んな風に見るだろう。
ふらふら旅しながら、馴れ馴れしく語りかけ、しつこく付き纏うのだから・・・
下手をすると、きっと”宵闇の演奏家”よりも性質が悪く映る事だろう。
きっと、物事は一片で見知る事の出来ない、複雑な事ばかりだと思う。
僕が”こういう人間だよ”と自己紹介したって、相手がそう感じるとは限らない。
もしかしたら僕自身、”僕”をちゃんと知っていないのかも知れない。
だからこそ、この二人・・・アーリックとダミアンの事だって
もっと近くから見る必要があるんじゃないか、と思うんだ。
例え二人が、邪悪な物であったとしても、目をそらして居てはいけないって思うんだ。
”二人の名をどこかで聞いた記憶があった”
僕がおぼろげにそう感じるのなら、それは何かの運命なのかも知れない。
だから僕がこの二人を避けてしまうと、歯車がひとつ止まってしまうかも知れない。
僕はきっと、この二人に出会うべくして彼らの名前を知っていたんだ。
だからあんなにもソワソワして、この広場をうろついていたんだ。きっと・・・・。
さぁ、明日も朝から大忙しだ。
早くお家に帰って、ママのご機嫌を伺って、美味しいご飯を食べて寝よう。
僕の時間はきっと有限だ、思った通りに明日も生きられますように。
fin.........