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2024/04/20

語り屋と君:暗闇の優しさ②

うふふ、涙はすっかり止まったね。
じゃあさっきの続き、いこうか?




あはは、そうだね。
せっかく泣き止んだのに・・・





大丈夫
救いの手は誰にだって差し伸べられてる物さ
それを掴むか掴まないか
ただそれだけの事なんだから、さ。





さぁ目を瞑って。
暗闇がどんなに優しい物か
教えてあげよう、ね。



*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

暗闇の優しさ

 

「だけど人は下らない。・・・お前はこんなにも美しいけれど
そんなお前をこのままあの街に帰せば、きっとお前をまた蔑むだろう。
お前の心を覗こうともせずに、肌に触れようともせずに。」






 

神様は続けた、言葉を紡ぐ様に淡々と。
だけど少し先程とは違う。
何かが・・・・違っていた。
あんなにも穏やかだった神様の顔は、どんどん憎しみで滲んでいく。
じわじわと、形相が変わっていく。
彼は神様の異変に、何か問わなければいけないと感じた。
彼が何か口にして、この異変を止めなければならない、と。





 


「そうだ、いいアイデアがある。
あの街をお前だけの物にしてあげるよ。
そして私達と暮らそう。
私はお前を恐れはしないし、こんな風に触れる。
私の仲間も皆、お前と同じだから・・・お前は一人じゃないよ。」







 


口振りは軽く、クリスマスの準備について話している子供の様だった。
・・・だけど神様の表情はやっぱりおかしかった。
さっきまでみたいな、穏やかさは微塵も感じられない。
だから彼は思った・・・この瞬間を逃したら・・・
取り返しのつかない、間違いを犯すのだろうって。









だから必死に思い出そうとした。
どうやって、生まれたばかりの赤ん坊が鳴いていたか、ってね。
弟が生まれたあの日、納屋で閉じこもっていた彼が聞いた
遠くから聞こえる生命の息吹はどんな物だった、って。

 




「神様、僕はそれでいい」





 

止めなければならない・・・そう強く感じた瞬間
あんなにも堅くなった口から言葉が流れた。
弟の力強い鳴き声が、暗い納屋に流れてきた瞬間の事を思い出したから。
あの日は丁度豪雪の厳しい日で、とっても寒かった。
だから弟はきっと「寒いよ!寒いよ!」って鳴いていたんじゃないかって思った。
そうしたら一気に喉を閉鎖していた栓が抜けたみたいに声が出た。
焦れていたばかりの心が、一気に解放された気分だった。


 





体の傷は癒え、心の傷も癒えた。
だからもう、これ以上自分の痛みを神様が背負う必要はない。
彼はそう、神様に伝えたかったのさ。
痛みが憎悪に変わる。
そんな感覚を彼自身は知らなかったけれど
きっと自分のせいで、神様が彼らを憎んでしまったんだろうと思ったんだ。


 




 

神様はひどく驚いた様子だった。
まさか彼が”それでいい”と口にするとは考えていなかったから。
神様には確信があったんだ。
抱き締めた時、少年が初めて”愛”に触れた瞬間
少年は確かに”神様の存在を欲した”と。
なのに・・・今のままでいいだなんて。
どう考えても頭が狂ったんじゃないかって思った。



 

 

「もう一度言うよ、神様。
僕はこのままでかまわない」



 




それは彼の本心だった。
神様を想っていたのは事実だけど・・・
それが全てではなかった。
自分の選択が正しいと思っているから
神様にそう力強く言ったんだ。





 


「どうして・・・!戻ればまたお前は一人・・・
真っ白けのお前はまた除け者さ!
だけど私のアイデアでいけば、お前は皆と同じになれる!
それの何が不満なんだ!?」






 

神様は平静を欠いて声を荒げた。
そして彼の無欲さに呆れさえも感じていた。
だから余計に苛立って、気付けば彼の腕を強く掴んでいた。
真っ白な彼の腕、細胞のひとつひとつが反応する様に
真っ赤になってしまっていた。

 




だけど彼は神様を見て微笑んだ。
そして少しだけ目に涙を滲ませて
そっと口を開いた。




 

「それじゃあ・・・街の人達と何も変わらないからさ」





 

森が静まって、葉同士が擦れ合う音すらも無かった。
彼の言葉に驚いた神様が、世界の時を止めてしまったから。
神様は彼の言葉に・・・動揺した。





 

「自分が除け者になるのは嫌だ。
だけど・・・誰かを除け者にするのも嫌だ。
僕は誰よりもその辛さを知っているし
その痛みがどんなに大きいかも知っている。」






 

木も鳥も、花も風も、太陽も人間も
全ての物が時を止められて、今まであった物全てが無くなったみたいだ。
人によっては魅力的かも知れない。



だけどそこは彼にとって、何の意味もない世界だった。
確かに彼を蔑む者はいないけど、それじゃあ無と同じだと思った。
神様が最初、彼に言った言葉・・・・
「無欲は何もないのと同じ」
だから神様が自分にプレゼントしようとしている世界は
きっと自分にとっては無なんだと感じた。




 

「違うからこそ、軌跡だと神様は言ってくれただろ?
だったら僕はそれを信じて、今までの世界で生きたい。
きっと苦しむ事も、痛む事も多いけど・・・。」




 

神様はそういう彼の気持ちが解らなかった。
人間はみんな貪欲だったから。
彼が今までに触れ合った人間は
楽園をプレゼントする、と言えば
若しくは見せてやれば
どんな人間でも皆、快諾したからさ。
誰だって、楽園があるのなら・・・そちらに惹かれるだろう?
僕だって・・・そんな誘惑があったらきっと行ってしまう。




 


「そんなに辛い思いをして、何故お前はここにこだわる?
いいじゃないか、僕らは一緒だろう?
違わなければお前は美しい。心だって美しい。
きっと人気者になれるんだから!」

 





神様は今までに無いくらい苛立った。
だから大声をあげて近くの木を木っ端微塵にしてやった。
彼に向けられた苛立ちを、声無い物に向けた。
そこに悪意などなく、ただ理由が解らなかっただけだった。
彼を想っての事なのに、拒否される理由が解らなかっただけ。






 

「同じでありたい訳じゃないんだ。
僕はみんなと同じでありたい訳じゃない。
ただ生きていたいだけなんだ。
全てがみんなと違っても
この世に生まれた幸運は同じだった。」



 


 

どんなに周囲を破壊しても、彼は一向に意思を曲げない。
怯えるそぶりを見せないし、動揺すらも見せない。
彼は穏やかな眼差しを神様に注いで、ただ首を横に振るだけ。





 

「だから僕は今の世界・・・そこで生きていたい。
もしかしたら次の瞬間には石をぶつけられて死ぬかも知れない。
だけど僕はそれでいいって思うよ。」





 

「何故だ!?そんなのこの世界を変えても同じじゃないか!
死んでしまったら意味なんて生まれない。
終わってしまうと言うのに!」




 

神様はもう限界だった。
大きく叫び声を上げると、同時に目がやたら熱くなった。
眼底から押し上げられる様な感覚と、鈍い痛みを感じて
頭が狂ってしまいそうだった。
その痛みを堪えようと力を込めたらポロっと石が転がった。

 


初めて神様が流した”悔し涙”だった。

 

 

「何故・・・?うん。
神様が僕を・・・こんなにも愛してくれたから。」

 




 

石がボロボロと神様の瞳からこぼれ落ちる。
その石は宝石みたいなキレイな物じゃなく
少年を傷つける為に拾われた”ただの小石”と同じだった。
なんの変哲もない、そこらじゅうに転がっている石だった。

 


「奇跡だと言ってくれた。
だけど神様は僕の為に、僕達の様な人達を集めて世界を作ってあげるって言った。
明らかに矛盾しているでしょう?
違うから奇跡なのに、その違いを集めて作る世界で暮らすなんて。
神様にとっては・・・禁忌だと思うんだ。」






 

神様が見開いた目から薄汚い石がボロボロ落ちていく。
まだ止まることもなく、神様の足元にどんどん積み重なっていく。
少年は神様の瞳をとても温かい眼差しで見ていたけれど
神様は地面と睨めっこしたまま動かない。
だけど彼はそのまま語る事を止めなかった。




 

「そんなにも人を愛しいと思ってくれた神様に
これ以上禁忌を犯させてはいけない、って思うんだ。
それは僕の求める事。
神様の為じゃない、僕の意思なんだ。」





 


そう言って彼は動かなくなった神様を抱き締める。
された事もした事もなかったから、ぎこちない仕草だけれど
彼は精一杯神様にしがみついていた。
この想いが神様の涙を止められる様に・・・
この温度が神様の心を温めます様に・・・。

 





「神様、僕はあなたのお陰で愛を知った。
だから・・・もう僕のために禁忌を犯す必要はないんだ。
もう既に、天にも昇ってしまうくらい
幸福をいただいたんだ。
僕も貴方が愛しい。だからどうか・・・」





 


少年はこの短い人生で、こんなに喋った事が無かった。
だけど言葉は知っていた。
一度も掛けられた事はないけれど
ママやパパが姉弟に向けて言った言葉をいつも聞いていたから。
一人きりの暗い納屋で、温かな言葉を嬉しそうに笑って聞いていたから。
自分に向けられた言葉ではなかったけれど
”愛しているよ”そのフレーズを聞くと不思議と胸が熱くなったから。





 

その時だ。








少年が抱き締めていた神様が、どんどん冷たく硬くなっていく。
瞳からこぼれていた、あの小石の様にゴツゴツした石になっていく。
少年は慌てて、抱き締める力を強める。




 

「神様・・・・!?神様っ!!」






 

大きな声を振り絞って、神様に呼びかける。
だけども神様はどんどん石になっていった。
そこら辺に転がっている薄汚い灰色の石。
あんなに真っ白だった肌も、絹のように柔らかい白い髪も。
どんどん灰色になっていって
とうとう体が全部石になってしまった。





 

彼が慌てて、どうにかしなきゃ・・と思ったけれど
もう何をしても手遅れだった。
神様はただの石になって、彼の腕では支えられない程重くなっただけ。
それ以外には何一つ、変わらない世界が広がっていただけ。






 

止まっていた時が動いた、と
彼が気付くには少しの時間が必要だった。
何故なら、彼は神様が石になってしまった現実を受け入れられなかったから。
気付けば涙を流して・・・それどころか鼻水、ヨダレだって垂れていた。
だけど、そんな事も気にならないくらい悲しかった。





 

いつしか”それ”が、ただの”石”になった事
森が息吹いて、鳥が山に帰っていく声。
街の教会の鐘が子供達に、夜を告げる音。
家路に向かう無邪気な声。
全てをしっかり認識できる様になった彼は
頭にできたカサブタを少し撫でながら思った。





 

あの神様は、何故あんな事を言ったのだろう・・・って。
そして何故・・石っころになってしまったんだろうって。







 

だけどすぐに、彼は気持ちを切り替えた。
だから神様だった石を、森の泉に沈めてやった。
一目に触れない所の方が、神様が落ち着ける気がしたから。






 

ぽちゃん、と音を立てて石が泉に飲まれていく。
それを見て彼は心底、穏やかな気分になれた。
もう二度と神様が苦しむ事はない、そんな風に感じた。







そしてすぐに身を翻し
元の街に戻っていく。
やっぱり彼は・・・・戻っていったんだ。
自分を拒絶するあの街に。




 

だけどきっと、彼は幸福であるに違いない。
その価値は他人の目からは測れない。
何故なら・・・・これは彼の選択だったから。
僕らには解らない、彼の答えだったから。




 


*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.



このお話はここでお終い。


ねぇ・・・君。


彼に声をかけた男は・・・



本当に神様だったと思うかい?




ううん、そうじゃないよ。
神様かも知れないし、そうじゃないかも知れない。
このお話に答えなんてないんだから・・・ね。
それは君の解釈でいいんだよ。




そうか・・・うん。
そうかも知れないね。





え・・・?

なんでこんな日に
こんな悲しい話を持ってきたのか、って?



あ、うん・・・そうだね。
これは僕自身の意思だから
僕が言わなきゃ解らないかな?




この話は確かに悲劇だ。
結局少年を取り巻く環境が変わった訳でもないし
唯一、彼を愛した神様も消えた。



だけどね、見て御覧


彼は変わらなくとも
自分を幸運だったと思っている。
じゃなければ
神様だった石をわざわざ
泉に沈めたりたりなんかしないさ。




このお話のタイトル・・・
暗闇の優しさ
君にはその意味が通じたかな?



目が見えないと不便だよね。
生活するにもコツがいる。
だから目は見えた方がいいに決まってる。



だけど時々ね
目を閉じた方が世の中は上手く回るんじゃないか
そんな風にも思わないかい?


手を繋いだとしても
それはただ単に手を繋いでいるだけだろう?
抱き合ったとしても
それはただ単に抱き合っただけだ。





だけど目を閉じて御覧。
暗くて、何も無くて、途端に不安になる。
どんなに騒々しい場所に居たって
自分は一人な気がして
怖くなったりしないかい?



そうして手を繋いで御覧?
もしくは抱き締めあっても良い。



どれだけ暗闇が優しさをくれているか解る。
相手の温度に落ち着いている自分にも
すぐに気付いてしまうだろう。


物語の彼は
その暗闇の優しさを知っていたのさ。




・・・え?なんでそう言えるか、って?



彼には特殊な能力があったんだと思う?
答えはノーだよ。
そんなものは一切持っていなかった。
奇跡の子と例えたけれど
結局見た目が違う普通の少年さ。


だけど暗闇の優しさを知っていたから
見誤る事無く自分を信じれたんだ。
目に見える物が全てではない事を知っていた。
ただそれだけさ。




え・・・?余計に解らなくなる?
まぁまぁ、怒らないで。
物語のラストは君が描く、そういうルールだろう?





あぁ、時間が来てしまったね。
ほら、僕の懐中時計・・・針が止まってる。


ううん、違うんだ。
僕が一箇所に留まりすぎると
こいつは拗ねて仕事をサボるんだ。
だから他のところへ早く行かないと
どんどん僕の時間は遅れてしまう。




じゃあ、またいつか。




あ、今日も君に僕からメッセージを送るよ。




目の見えない世界は暗くて怖い
だけど、目を開けば違いが怖い



でも、よく考えて。
大事なのは目に見えていること?
そうであったとしたら
人は愛なんて感情を抱かない。




目に見えない物をしっかり見る事。
そして自分で選択をするんだ。
何が一番、君にとって大事な事?
何が君にとって正しい事?
他人に惑わされず
自分自身の選択を信じて。





そうすればきっと
君も物語の中の彼のように
他人には推し量れない幸運を手に出来るはず。





祈りを込めて・・語り屋より











それじゃあ今日も良い夢を。


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2011/07/04 語り屋と君 Trackback() Comment(0)

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