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こんばんは。
やぁ、良い夢見られたかな?
あはは、そうだね
じっくり君の寝顔を見せてもらったよ。
だから今日は前回もらったお代分
しっかりお話を聞かせるよ。
あ、ありがとう。
今日は夜なのに暑くて・・・
少し喉が渇いていた所だったんだ。
うん、美味しい。
冷たい紅茶はいいね。
体の芯が一気に冷める。
さて、前回の続きを話そう。
神様を愛する少年が
全てを失くして森で泣いているシーンから。
健気で純粋な心が
奇跡を起こすお話の始まりだ。
*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.
そんなある日だ。
いつもの様に寝ることもなく彼が木の下で泣いていると
不思議な声が彼に語りかけた。
「森が泣いている。・・・・お前を想って泣いているぞ」
何ヶ月ぶり・・・ううん、もしかしたら何年振りかも知れないけど
久々に人の声を聞いて、彼は驚いた。
ずっと伏せたままだった顔を上げると、少し目が眩んだ。
歪む視界の先には声の主と思われる人が居た。
男でも女でもない、だけど美しくて・・・どこか強い印象。
口を少し緩めて、彼を見ているみたいだけど
金糸の様な前髪が邪魔で、顔がよく見えない。
「泣いてなんかいないよ・・・!」
彼はすっかり警戒心を露わにした。
その不思議な人には危険を感じなかったけど
あんなに酷い目に合った後だったから
他人は嫌いだった。
「あぁ、そうかも知れん。だけど森は泣いて私を呼んだ。
それは私がここに居る以上、否定出来ぬ事実だ。」
本当にその人は不思議だった。
喋っているのに口を動かさない。
実際、よく考えると・・・耳から入る音じゃない。
それは・・彼の脳に直接、想いを飛ばしてくるみたいな感じだ。
怖い!!
必死に彼の体がそう訴えた。
彼自身がそう考えた訳ではなかったけれど
体の至る所が恐怖で硬直して、怖い怖いと騒いだ。
「森だけじゃない。ここを選んで居住する動物、草花・・・
泉の水だってお前を想って泣いて、私に願ったよ」
その人は彼の気持ちを知ってか知らずか
丸まって怯える彼に歩み寄って
ぎゅっと握り締めて真っ赤になった彼の手に触れた。
「あんなに可愛い笑顔を、神様への純真な愛を
全てを忘れて、失くしてしまったよ。
彼が壊れてしまったよ。
神様、どうか助けて、とな」
その言葉に彼は大きく息を飲んだ。
大きな彼の目が、目玉を落っことしそうになるくらい。
「神様・・・・神様なの!?俺が愛した神様!?」
咄嗟に彼は大きな声をあげて聞いた。
あんなに大好きで、愛しかった神様が自分の目の前に居て
そして自分の手に触れてくれているこの事実を
夢じゃない、幻じゃない、間違いじゃないって証明したくて。
「お前には解るだろう?あんなにも愛してくれたのはお前だけだったから。」
神様は口の端っこを上げて、優しく微笑んだ。
丸まった彼の背丈に合わせるように地面を這うと
そのまま彼の頭を撫でた。
・・・彼は胸が張り裂けそうだった。
それは神様に溢れる想いを伝えられなかった頃の焦れとは違う
なんとも形容しがたい痛みだ。
息が止まってしまう様な、胸のカラクリが壊れてしまった様な。
「私を愛するのはお前だけじゃない。
だけど人は必ず”愛して欲しい”とも願う。
最初はそうでなくっても、必ずそう最期に願う。
そして永遠に”愛が欲しい”と乞う様になる。」
そして神様は彼の頭から頬まで手を滑らせて
いっそう穏やかな笑みを湛えながら彼の顔を触った。
目、鼻、口、おでこ、頬。
彼の顔についている物を細くて長い指で、なぞる様に。
「私はそれが嫌な訳ではないけれど
お前が現れた時、何かの確信に似た予感を感じた。
甲斐甲斐しく、健気に私を愛するだけのお前。
臆する事無く私へ愛をプレゼントするけど
決して何も求めないお前。
そんなお前に、自然は恋心を抱いて
人々は羨望の眼差しを向ける。」
その仕草は他人同士が、他人の心に触れたくて
だけどそれが出来ないから
代わりに考えた”愛の仕草”だった。
温度と温度で、互いを認識して
速度と感触で汲み取り、伝える仕草。
神様は彼に、そんな風に触れていた。
「あぁ、この子さえ居ればこの世は愛に満ちる、と」
神様は続けて言葉を発するけど
彼はとにかく忙しかった。
神様が触れる所が疼いたし、ぴりっと痛む気もしたし
同時に胸のカラクリは壊れそうに激しく動いたし。
それなのに神様は彼の脳にシグナルを飛ばしてくるから。
まるでそれは、人を狂わせる薬だと思った。
頭が痺れて、体からどんどん力が失われて
なのに恐怖なんかまったく感じない。
あるのは幸福な想いだけだった。
「後は・・・お前が何者にも侵されない意志を持つだけ。
そして私から目を離し、心を他人に向けるだけ。
私だけを愛すのではなく、他人をも愛せばいいだけ。」
「・・・・・・っっ!!」
だけど神様の言葉には耳を疑った。
痺れる脳で聞いた声に衝撃を受けたんだ。
・・・だって、こんなに彼は神様が好きなのに。
他の誰でもない、神様が好きだったのに。
その感情を他にも向ければいいだなんて・・・
まさか神様本人に言われるとは思わなかったのさ。
だけど神様は表情を少しも変えずに続ける。
彼の無防備な唇を指でなぞって・・・
時々弄びなら、暫く驚く彼の大きな瞳を見つめていた。
神様の顔は半分、金糸の様な長い髪で隠れていたけれど
とってもとっても、愛しそうに彼を見つめていた。
「神様・・・・だけど・・・俺は神様が・・・」
彼は言わなきゃって思った。
この気持ちは、そう簡単に他へ向けられる様な物じゃない。
だから・・・どうかそんな事を言わないで、って。
愛しているだけで、いいのだから。
愛して欲しいなんて思っていないのだから。
欲したりなんか、絶対にしないから。
どうかそんな事を言わないで・・・・って。
だけど、痺れた脳は何もシグナルを流さない。
体だって何も受け取ろうとしない。
神様に触れられる唇が・・・ただただ熱いだけ。
必死に声を出そうとすれば、喉が裂ける程痛くなって
しまいには涙がまたボロボロと流れた。
神様はそんな彼の涙を指で拭うと
微かに口を動かして”くす”っと笑った。
そして神様は、金糸の様に輝く綺麗な自分の髪を撫でると
束ねる為に使っていた7本のリボンを解く。
リボンが解け、神様の髪がキラキラと散っていく。
森の木々の間を吹く風にさらわれて行くように
ふわっと舞って飛んで行ってしまう。
「神様!!いけないよ、せっかくの綺麗な御髪が・・・・!」
彼は慌ててそれを追おうとするけど
神様は彼を行かさなかった。
飛び出そうとする彼の体を抱きすくめて
”何故止めるの?”と問う彼に首を振ってみせた。
「このリボンは私の髪を結う為に、いつも身につけていた物。
見ての通り、このリボンがなければ私の髪は切れてしまう。
切れてしまう物同士を結び、繋げる不思議なリボンだ。
森が騒ぎ始めて、私を呼んだ時
お前にこれを授けようと、私は心に決めていた。」
神様はそう言うと、彼の小さな手を開かせて
そっと優しく、7本のリボンを手の平に乗せる。
無機質なただのリボン。
なのに不思議と触れている所が熱かった。
「これを・・・?なんで・・・・」
彼は戸惑っていた。
まだ脳は痺れているけど、それだけじゃない。
何故そんなに大切なリボンを神様がくれたのか。
せっかく、あんなにも長くて綺麗な髪だったのに。
どうして自ら、それを外してしまったのか。
リボンを解くと切れてしまうと、解っていながら。
彼は色々解らない事があって困惑してた。
だけど神様の考えている事が一番
理解出来なくて、胸が痛かった。
「そのリボンは結んでいる限り、絶対に解けない。
結んだ者が、次の持ち主にプレゼントしようとしない限り。
・・・・・だからお前がこれで、この世界を結びなさい。
世界に散らばる7つの海を結んで、繋げるんだ。
私の愛する、お前が・・・・私の代わりを勤めるんだよ。」
神様は微笑みながら言うけれど
彼は神様を”残酷”だと感じた。
だって、愛している人からそう言われたら・・・・
愛している人から”愛するお前”と言われたら・・・
どんなに辛くても、聞く他ないから。
どんなに神様だけを愛していたくても
”代わり”なんて言われたら・・・
嬉しくなってしまうからだ。
「そうすれば・・・・どうなる?」
彼はボロボロと涙を流しながら神様を見つめた。
そんな事したって、何も変わらないって思っていた。
「私がとても幸せになる。そして皆もまた幸せになる。」
神様はそう言って笑う。
愛しそうに腕の中の彼を見て、微笑んで。
”そうしたらお前は嬉しいだろう?”
そんな風に口を動かした。
初めて神様が、彼の耳に聞かせる声。
驚いた彼を見て、神様は可笑しそうに笑った。
「嬉しいよ、神様が喜んでくれるなら・・・
とっても嬉しいよ。
だけど・・・
俺なんかには出来ないよ・・・
だってもう何もないんだ。」
彼はか細い声を振り絞って、そう言った。
そう、彼はもう何も持っていない。
だから自分には何も出来ない。
そうやってこの暗い森で
独りきり、来る日も来る日も泣いていたんだから。
「だけどお前には残っているだろう?
言葉に、あの美しい旋律。
脳内に刻んだ物。
それに・・この美しい森。
そこに住まうたくさんの生物。
お前を愛してやまない者の一部だ。」
神様は変わらず口を動かした。
シグナルで飛ばすんじゃなく、彼の耳に直接。
少し高くて、美しい音色を奏でるような声で。
「そして変わらぬ私への愛。
体の許容を超えて湧く想い。
その愛で、全てを愛してしまえばよいだけだ。
私を忘れるのではなく、
私に依存するのを止め、
私の愛する物を私ごと愛せばいいのだよ。」
「・・・・っ」
でも!でも!ってママに懇願する様に
ワガママをまだまだ言いたい気分だったけれど
神様の言葉に胸が苦しくなって声を出せなかった。
「目に見えぬ物を信じる者は少ないだろう。
だけどお前の生み出した者は目に見え、耳に届く。
人々はそれを魅力的に感じて欲しがるし、奪うかも知れん。
だけどお前は惑わされずに生み続けるんだ。
美しい物をたくさん生んで、少しづつ愛を説いていくんだ。」
神様は苦しそうに眉を顰める彼の頬にそっと触れて
顔を少し傾けると
彼の唇にキスを落とした。
涙で濡れて、グシャグシャになった彼を癒す様な優しいキス。
それはそれは、本当に美しい行為だった。
「そうすれば人は次第に気付いていく。
奪うことより、共有を望むようになる。
あとはお前が・・・・それを受け入れればリボンは結ばれる。
この世をひとつに結ぶのは、神の声じゃない。
人と人の間に生まれた絆、愛が結ぶんだ」
唇を離すと、神様は彼を抱き締めた。
神様は少しだけ震えていて、抱き締める力でなんとかそれを収めていた。
・・・・神様もまた、自分を残酷だと思っていたんだ。
こんなに小さい彼に、こんなにも愛しい彼に
大それた使命を与えていると自覚していたんだ。
だけど神様は愛の神様だから。
皆に愛を説かなきゃならないから。
だけどそれは、神様には出来ない事だから。
神様の存在を否定する、この世界では出来ない事だから。
だからこんな日を・・・神様の代役と出会える日を夢に見ていたから。
「神様・・・」
彼は神様の心を覗いた気分でいた。
抱き締められた瞬間、神様の体が少し震えていたのが解ったから。
だからそれ以上、ワガママを言わないでおこうと思った。
だからどうか・・・笑って、と思った。
昼なのに少し薄暗くて、寂しい森の中。
誰も欲しがらなかったみすぼらしい森が
彼と神様の出会いを祝福している様だった。
木の葉と木の葉が擦れて、それがハープになる。
幹が体を膨らませて、それがドラムさ。
泉で魚が跳ね、滝が水を絶えず落として
リスが木の実を石に打ち付ける。
全ては命の奏でる旋律だ。
鳥たちが歌う歌は・・・きっと彼の歌った愛の歌。
今度は彼が神様を抱き締める番。
小さい体を思い切り伸ばして、神様を抱き締め返す。
こんなに愛が溢れてるんだ。
きっと神様の事を想ったら・・・・
こんな震えた神様の事を想ったら・・・
やれない事なんて何一つ無い。
彼はそう思った。
思った分だけ、神様を抱き締めた。
気付いたら森はまた真っ暗闇になっていた。
彼は慌てて木の下からその場を見渡した。
だけど神様はもう居なかった。
彼は悲しんだ。
神様が居なくなった、もしかしたら夢だったのかも知れない。
頭が狂って、幻を見たのかも知れないって。
だけど森がそれを慰めた。
ざわざわと木の葉が揺れて、次いで風が吹いてきて
その場に散らばった7本のリボン。
彼はそれを見て驚いた。
そしてやっぱり同時に・・・悲しんだ。
言いたい事を伝えられなかったから。
神様を愛してる。
だから神様の望む世界、必ず自分が作ってみせる。
他人は少し怖いけど・・・・きっとこのリボンで結んでみせる。
そんな風に伝えたかったのに。
項垂れて、その場に座り込む彼。
そんな彼の耳にそっと風の音が流れて
その後から少しずつ色んな音が届く。
”夢じゃないよ、愛の神の子。神はお前をずっと見ているよ
幻なんかじゃないよ、愛の神に愛された子。
お前が作る愛に満ちた世界
いつもいつも見ているよ”
それは歌だった。
森の生物達が奏でる愛の神様からのプレゼントだ。
森の生き物たちは、それからずっと、ずっと歌った。
彼を励ます様な愛の歌。
彼を目覚めさせる愛の歌。
神様が残した彼への愛を、ずっとずっと歌ったのさ。
そう、ずーっとずーっとね。
*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.
さぁ、このお話はこれでおしまい。
え・・・?やっぱり不満?
うん、君ならそう言うと思ったから。
だけどいつも言っているでしょう?
物語の彼が迎える物語の結末は
君自身が描いて欲しいんだ。
例えば・・・そうだな。
彼はこれからどうするのだと思う?
森の歌を聴いた彼はどう思った?
森の中でずっと泣き続けたままだっただろうか。
それとも神様の願いを叶える為
また愛の歌を歌い始めただろうか?
・・・・もしかしたら
今もどこかで一生懸命
神様へのプレゼントを作っているのかも。
あぁ!そうだね、その結末は素敵だ!
君の言う様に
7つの海をあのリボンで結んで
神様と共に暮らしているかも知れないね。
そしたら彼、きっと体がもたないね?
え?だってさ
あんなに愛した人と共に暮らせる日が来たら
誰だって胸が壊れてしまうでしょう?
え?そうなの?
なんだ、本当に壊れてしまうのかと思ってた。
ちょっとそれはつまらないかも。
・・・・あぁ、嘘だって!
つまらなくなんかない。
とっても素敵なお話だよ!
解ったから叩くのを止めて!
あ、でもさ・・・
解っただろう?
僕が何故、結末のない物語を話すのか。
君は今とっても幸せだから
彼もまた幸せな物語の主人公になれたんだ。
ううん、違わない。
自分では気付かなくても幸せなんだよ、君。
本当に不幸な人は
誰かがハッピーエンドになるのを酷く嫌う物さ。
いや、そうじゃない。
悪い人間なんじゃなくってね・・・
うん、そうだな・・・・
それはその人自身が不幸なのではなくて
その人の心が不幸なのさ。
だけど、それもまた人だから。
僕はそんな人も大好きさ。
だからこそ語り屋は辞められない!
あはは、そうだね。
僕ってすっごく変わり者なんだ。
さて、そろそろ行かなきゃね。
懐中時計がまた止まってる。
あはは、こいつは本当大切な仲間なんだ。
名前は”プルート”
君も今度は挨拶をしてやって。
彼は人間が大好きだから、ね。
さぁ、ではまたの機会に。
あ、君に僕からメッセージを送るよ。
愛は盲目。
だってそりゃしょうがない。
愛って物はもともと
夢中になる為の物でしょう?
だからこそ、愛する者を想って暮らせる。
だからこそ、愛する者を想って変われる。
愛があるから無限だよ。
例えそれが・・・
自分にとって辛い事だったとしても。
だから君も夢中になってしまえばいいよ。
その愛に全力を注げば良い。
後の事なんて
また後で考えればいいんだから。
祈りを込めて、語り屋より。