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2024/11/22

語り屋と君:暗闇の優しさ①


やぁ、こんにちは。

最近君と会う事も多くなったね。
少しでも僕のお話を気に入ってくれたなら
それはとても喜ばしい事だよ。


 

うん・・・呼ばれた気がした時から気付いてた。
君、今日はなんだか元気が無いね。
いいや、話さなくっていいよ。
その心の痛みは僕のお話を聞いてから
もう一度改めて覗かせてもらうよ。


大丈夫、こんな日には
大切な事を学べる、そして考えられるお話を用意したんだ。
リラックスして耳を傾けて。

 

さぁ・・・今は頭をからっぽに。
そして僕のお話に合わせて
君の脳内で世界を描いて。

 

そうだ、今日は目を瞑るといい。
暗闇の優しさを、教えてあげるよ。

 

 

 

*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.


暗闇の優しさ


ある所に忌み嫌われた子が居た。
彼はとても美しい容姿をしている子だ。
真っ白の肌に、真っ白な髪。
唇はぷっくりと真紅に染まって、本当に美しかった。
一目見れば彼を好きになってしまう位に。


 

だけど少年は嫌われていたんだ。
何故かと言うと、理由はひとつだ。
真っ白な肌、真っ白な髪は他人と違う姿だったから。
そして右と左で違う色の瞳を持っている人間も
彼の他には居なかったから。



 

僕が見ると、彼はまさに神様が生んだ奇跡の子だ。
他の要素の美しさに加えて
左右の瞳の色がブルーとイエローだよ?
その上、とても澄んでいる瞳だから
これが奇跡と言わずして、何と呼ぶだろうか?





 

だけどね、やっぱり少年は嫌われていたんだ。
街の人々は彼を見かけると
次々に罵声を浴びせ、時には小石を投げてぶつけた。





何もしてはいないんだ。
その子はね、生まれて今に至るまで
悪い事なんて一度もした事がなかった。
それどころか・・・・とても清らかな心を持っていたんだよ。
動物を愛し、植物を愛し、家族も愛していたのさ。
誰かが泣いていれば、たまらず声を掛けたし
悪い事が世の中に続けば・・・神様にお祈りしに出かけた。




 

だけどね、それでも少年は嫌われていた。
彼に声を掛けられた坊やは悲鳴をあげて逃げて行ったし
その声を聞いて集まった大人に叱られたし
教会の牧師様は”この布を頭から被りなさい”
そう言って彼にシーツを渡したもんさ







彼の心はいつも慈しみで溢れていたけど
街の人達は彼の容姿があまりにも不気味で
接することすら嫌がった。
だから良い事をしても
それは”良い事”だと認識されなかった。

 



家族も・・・・悲しい事だけど彼を捨てた。
それはつい、先日の事だったんだけどね。
彼の家族には姉と小さな弟が居た。
だから・・・そうするしかなかった、と少年は思っている。
仕方の無い事だった、と今でも家族を愛している。

 



生まれてすぐに、少年の両親はその容姿に驚いた。
真っ白な肌に真っ白な髪。
それに目を開ければ・・・・ブルーとイエローの瞳。
少年を生んだばかりのママは神様を恨んだ。
”どうして私の子なのに、私に似ていないの!?”
そう何度も天に叫んだのさ。
パパはそんなママに言った。
”成長すればきっと、私達のどちらかに似るさ”
そうやってママをなだめたんだ。




 


だけれど、結局何年経っても少年はそのままだった。
真っ白の肌に、真っ白な髪。
そして両目には色違いの瞳。
そんな変わった風貌の少年はすぐに偏見の対象さ。
哀しいけれど、人は自分と違う物を恐れるのさ。
・・・・それが人知を超えている事であれば・・・尚のこと。

 



少年に向けられた偏見は、家族にも向けられた。
当然の流れ・・・・だよね、悲しいけれど。
だから少年を置いて、街を出る事にした。
彼は出て行く家族の背中に向けて
”ごめんなさい、普通になれなくて”
そう一言だけ伝えて、後を見送ったんだよ。

 


こんなに悲しい、少年の事をどう思う?
ひどい話でしょう?理不尽だと感じるでしょう?
そうだよね、僕だってそう思うんだ。
彼はただ”周囲の人たちと同じ容姿”ではなかっただけ。
それ以外は何も変わらない、同じ人間だって言うのにさ。




 

それにね、とっても美しいんだ。
その容姿だってそうだけど、この子は心が一番美しい。
自分が悲劇の主人公だなんて、これっぽっちも気付かないで
毎日必死に投げられる小石から逃げているんだ。
何も憂う事無く、何も恨む事無く・・・ね。

 



そんな健気な彼は、ある日投げられた小石が原因で
運悪く頭に怪我をしてしまう。
額から生暖かい感覚がしたけれど、彼はとにかくその場を去る事に集中した。
このまま、ここで倒れてしまっては・・・もしかしたら死ぬかも知れない。
彼は生まれて初めて、そんな言い知れぬ恐怖を感じたのさ。

 




とにかく必死に走ったお陰で、すぐに森の深い所まで逃げられた。
だけど・・・その頃にはもう、体が思う様に動かなかった。
こんな感覚は彼も初めてで、何をどうしていいか解らない。
そうやって動揺している間も、頭から真っ赤な血が流れてくる。
今までに見たことがない、そのキレイな赤に溜め息すら出そうだった。
僕から見たって・・・彼の真っ白な肌に鮮血は・・・残念ながら良く映えていたよ。

 




今までね、彼は何も求めた事はなかったんだ。
自分自身を否定するこの世の中に、何を求めた所で
それが叶うとは思えなかったから。
でもそれはね、諦めでも卑屈でもなく・・・元々彼の中には無かったんだ。
だからこそ求めなかったし、叶うとも思えなかった。



 

流れる血は間違いなく自分の物なのに
不思議と痛みを感じない。
そんな恐怖を君は感じた事があるかい?
「怖い」と他人に言われただけで、あんなに心は痛んだのに・・・。






だから初めて求めた。
死ぬのなら、誰か傍に居て欲しいって。
そう、彼の中には孤独が生まれていた。
あんなに一人で健気に生きていたのに・・・・ね。

 




「一人で死ぬのは・・・嫌なんだ神様」

 





それは彼が初めて、自分の想いを口にした瞬間だった。
死ぬかも知れない・・・全身の神経が鈍って
もう流れる血液の温度さえも感じられなかった。
だから初めて・・・自分の想いを口に出来た。
もう何が何だか解らなくなる、そんな感覚が彼を支配しようとした時だ。

 






そんな彼の目の前に・・・不思議な姿の人間が現れた。
彼と同じ、真っ白な肌で真っ白な髪、真紅に染まった唇だ。
彼をじっと見つめる、その両目はキレイなブルーとイエロー。
だけど彼とは瞳の色が左右反対
それ以外は”変わった所”がまったく一緒だった。

 

 


彼は、暫くの間その不思議な容姿の男を見ていた。
半分真っ赤になった視界の中で、男を見ていたんだ。
その男が一体誰なのか、そして何故ここに現れたのか・・・・
考える事は他にたくさんあったはずなのに
何一つ考える事が出来ない。



 

「人間は下らない生き物だ」



 

不思議な姿をした男は口を開く。
そして横たわる彼に向かってそう言う。
足元に横たわる彼を労わるように、膝をつき背を丸めると
そのまま彼の目に手をかざした。





 

瞬間、彼はこの男を”神様”だと感じた。
そして自分はこのまま”死ぬ”のだとも思った。



 

だけど、神様は言う。




 

「お前が他とは違う、その奇跡に気付けないのだ。・・・下らないだろう」




 

彼は朦朧とする意識の中で、男の顔を必死に視界に入れる。
優しくて、温かく、口元を緩めた人の表情。
これがきっと”笑顔”と言う物なのだと思った。






「人はな、少なからず他人とは違う物で出来ている。
それがどこに出るか、ただそれだけの違いさ」






そう、僕も神様の意見に賛成だ。
それを嫌う人間が居れば、必ず好く人間が居るんだ。
例えば彼の容姿だって、その対象だと僕は思う。
だからこそ、彼の物語に立ち会う事を決めた。
彼は悲劇の主人公だけれど、それだけで済ます訳にいかないから。



 


神様はそっと彼の目から手を離すと、次いで頭を撫で始める。
そこで彼は確信する、神様は自分を連れて行くつもりがないのだ、と。
その体から流れてくる温度を感じられたから。







「だけど、お前は決して卑屈にならなかった。
お前を忌み嫌う者を決して恨まなかった。
全てを愛そうと、そう思っていた。
・・・愛された事もないのに、な。」





 

そう言って彼の体を抱き締める様に抱えると
彼の傷は途端にふさがっていった。
神様は彼を癒していたんだ。







「お前もいけなかったんだ。
無欲は何もないのと同じ事だ」




 

神様は彼を癒しながら呟く。
淡々としているのに、どこか神々しく
心に沁みる歌声の様に森に響く。
彼はその声にさえも癒されていった。
神様の言っている事の意味は、解らなかったけど
今は黙って神様の言葉に耳を傾けていたい、と思った。




 

「求める事は悪じゃない。全てはそこから変わる。
善き事も、求めなければ生まれないし
悪しき事は強欲が生むもの。
見誤らなければ良いのであって、最初から何も無ければ何も生まれない」






「あ・・・・あう・・・・あ・・・」






神様から流れてくる温かい温度が次第に彼から離れていく。
まだ彼には口を開く事が出来ない、何故だか解らなかったけど。
彼は生まれたばかりの赤ん坊の様に、思った事を口に出来ず喘ぐばかり。
そんな不思議な体験で彼は初めて”焦れ”を感じていた。
こんな自分に初めて、愛を与えてくれた神様にお礼を言いたい。
だけど、不思議と言葉が出ない。
だから心臓がきゅっと締め付けられる様になった。




 

「大丈夫、お前はもう”無欲”なんかじゃ無い
求める事、求める自分の心・・・これでお前は無ではなくなった」




 

彼の気持ちなんて知る由もない神様は言葉を続ける。
穏やかに笑みを湛えたその姿は彼に安らぎを与える。
彼は初めて、温かさを知った。
体温の温かさ、肌の温度は・・・きっと肌が真っ白でも変わらない。
だってこんなにも・・・神様の触れた所が熱を帯びている。
だからきっと、何一つ変わってはいなかったんだって思えた




*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.



・・・・あれ
君、泣いているの?




そっか・・・うん



このお話はとても悲しいお話だね。





だけど少なからず
誰にでも起こりうる出来事さ。
程度の差はあれど・・・ね。






あぁ・・・そうだね
解っていても悲しくなるよね。
どうかそんなに
涙を流さないで。






あ、そうだ。
少しだけ、心を落ち着かせるために
君にとっておきの歌を歌ってあげよう





これは僕が幼い頃
ママが歌ってくれた
優しい歌だよ






きっと君の涙も止まるはず。





その涙を一度止めてから
またお話を再開しよう








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2011/07/03 語り屋と君 Trackback() Comment(0)

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