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2017/04/25

語り屋と君:合わせ鏡の双子①


コンコンコンッ

 

君、居るか~い?
居るなら開けてくれないかい?
・・・はぁ・・・良かった、君が居てくれて。
そうだろう?ひどい雨でさぁ・・・うわぁビショビショだ・・・。
急に降ってきたもんだから雨宿りすら出来なくってさ。
この街だと君の家が一番覚えやすくて、つい来ちゃった。

 

 


あ、ありがとう。じゃあこのタオル、遠慮なく借りるね。
うーっ、今日も暑かったから雨でも天然のシャワーになると思ったけど
考えが甘かったなぁ・・・そんな悠長な物じゃなかったよ。
うん?いや、本当にすごかったのさ。
打ち付ける雨の粒が、まるで矢か何かに感じたくらい痛かったし。

 

 

 

ん・・・?あれ、そこに掛けてある絵・・・ヨエルじゃないか。
これ、手に取って見てもいいかな?
ふふふ、ありがとう。じゃあ遠慮なく・・・・よいしょ。
うわぁ~凄いな、ヨエル自分の絵までこんなに上手に描けるんだ。

 

 


うん?あー、前にね。僕がヨエルの絵を描いて欲しいって頼んだら
”自分の顔を鏡で見るのが嫌だ”って断られちゃって。
たぶんさ、あの眉毛・・・・あれがあんまり気に入ってないんだ。
うん?なんで分かるのか、って?
あはは、前にね?ヨエルが真面目な顔して僕に聞きに来たんだ。
”どこかの世界に眉毛を横長に伸ばす薬はない?”ってね。
生憎僕の知ってる世界でそんな薬は無くって、ヨエルも落ち込んじゃったんだけど。

 

 

うふふ、そうだよね?僕もそう思うよ。
ヨエルの短くてボサボサの眉毛、すごくキュートだ。
ちょっと怒ってる様にも見えるけど、とってもキュート。
・・・あ、そういえば”聞屋の双子”にからかわれてたっけ。
・・・・・もしかしたら、ヨエルが眉毛に執着するのは、それが原因かも?

 

 

 

あれ?タヴィスとタヴィッシュ達と知り合いなの?
・・・・・うんうん、そうだよ。見た目も声もまったく同じの双子。
あの子らはヨエルと仲良しでね、よく青い猫の広場でお喋りしてるんだよ。
あの双子、全部が同じだけどヨエルは”鼻が利く”からぴったりなんだ。
あはは、そうか・・・この絵は彼らが持ってきたんだね。
そんな粋な事を仕出かすのは・・・あの絵の精霊かな?
うふふ、やっぱり正解だった。

 

 

 


あ、ねぇ?あの二人を知っているなら・・・
特別にあの二人の話をしてあげよう。
今日は他に用事があったんだけど・・・この雨、痛いから。
雨が止むまでの間、君に雨宿りのお礼をするよ。

 

 

 


君とヨエルが仲良しになったのなら、もうそれは二人とも仲良しになれる証拠さ。
興味が出たんでしょう?もっと二人と話をしたかった・・・そうじゃない?
あはは、ほら当たった!ふふふ、ほら機嫌を悪くしないで?
君の心を覗くのは、僕が君を好きだからなんだから、さ。

 

 

 

それじゃあ、お話の始まりだ。
これはタヴィスとタヴィッシュの”旅立ち”の話。
目を瞑って、君のキャンパスに彼らを描いてあげて、ね。

 

 

 

 

 

 

*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

 

 

 

 

合わせ鏡の双子

 

 

 

 


「あら、キルシュさん。いらっしゃい。
タヴィスとタヴィッシュも、よく来たね。」

 

 

 

町外れにある、小さな洋裁店。
カランと可愛い音のベルが鳴ると、店主がドアの方を向いて笑った。
キルシュと呼ばれたマダムが挨拶をしようとすると
長いスカートを捲って、マダムの足の間を潜って出てくる男の子。

 

 


「こんにち、きゃあっ!!」

 

 

「こんにちは!イライザさんっ!」

 


「こ、こらっ!!タヴィス!!何てことをするのっ!」

 

 


マダムは長くてフワフワのスカートを捲くられておかんむりの様子だけど
タヴィスと呼ばれた男の子は何事もなかった様に店主に挨拶をする。
そんな”いつもの光景”に、店主は眉を下げて豪快に笑って見せた。

 

 


「あ、あっははははっ!!元気な挨拶、ありがとうね、タヴィス!
だけどオイタはいけないねぇ?マンマが真っ赤になってるだろう?
レディには紳士に振舞わなきゃいけないよ、タヴィス。
それと、タヴィッシュ?マンマの後ろに隠れて居ないで
こっちに来て可愛いお顔を見せて御覧?」

 

 

 


店主がマダムの背後を覗くように体を九の字に曲げて、優しくそう声を掛けると
嬉しそうにタヴィスがマダムの背後にくるっと周り込んで男の子を引っ張り出す。
引っ張り出された男の子は、一瞬びっくりした顔をしたけれど
すぐにモジモジと恥ずかしがって下を向いてしまった。

 

 

 

「タヴィッシュ?イライザさんにご挨拶は?」

 


「ほら、タヴィッシュっ!僕も一緒に言ってあげるよ?ほら、せーのっ!」

 

 

下を向いたままカチンコチンになっているタヴィッシュと呼ばれた少年に
マダムは優しく諭すようにそう言う。
するとタヴィッシュの腕を掴んでいたタヴィスが掛け声をかける。
相変わらずタヴィッシュは下を向いたまま、かちんこちん。

 

 


「こんにちはっ!・・・って、もう!なんで言わないんだよぉっ!」

 

 


「タヴィッシュ、ご挨拶も出来ないの?ほら・・・っ。」

 

 

「あははっ、キルシュさん止めてあげな?
あんまりガミガミ言っちゃうと余計に萎縮しちまうよ。
タヴィス?タヴィッシュを連れて奥で遊んどいで。」

 

 

「うわーい♪ありがとう、イライザさん♪」

 

 

店主が気前よくそう言って見せると、タヴィスは飛び上がって喜んだ。
そのままの勢いで店主に飛びつくと、可愛らしくチュッとハグをしてみせた。
店主はそんなタヴィスの頭を撫でると、タヴィスはニコっと笑顔見せて
それから後ろに居る、固まったままのタヴィッシュの腕を掴んだ。

 

 

 

「タヴィッシュ?お前の好きなパズル、あれやろうか?」

 


「・・・・・・うん。」

 


下を向きっぱなしのタヴィッシュの顔を覗き込みながらタヴィスがそう言うと
微かに声を出し、小さく首を縦に振って見せるタヴィッシュ。
それを合図にしたみたいに、タヴィスはまた顔を綻ばせると
タヴィッシュの手を握って店の奥へと消えていった。

 

 

 


「ふぅ・・・イライザさん、ごめんなさいね?
”あの子”も悪い子じゃないんだけど・・・・」

 

 


「ふふふっ、そんな事分かってるよ。
タヴィスもタヴィッシュも、それぞれにいい子さね。
・・・に、しても本当に”見た目と声だけ”はうり二つだねぇ~」

 

 


「うふふ・・・・その感想、イライザさんの口から聞くのは何回目かしら?」

 

 

和やかに会話をする二人、奥の部屋で睦まじく遊ぶ二人を眺めて笑ってる。
時々イライザが豪快に笑って、それに負けじとキルシュも笑ってる。
これは”いつもの風景”この小さな町外れにある洋裁店の朝の風景だ。

 

 

 

 

タヴィスとタヴィッシュはこの街で有名な双子だ。
割と大きくて、人もたくさん住んでいるこの街で有名なのには理由がある。
それは見ての通り”まったく同じ姿をしている”からだ。

 

 

 


彼らは9年前、街のテーラーに生まれた。
店主のドイルは服のデザインをし、ドイルの妻キルシュがそれを作る。
小さなテーラーだったけど、仲睦まじい夫婦の作る素敵な服は大人気だった。
そんな二人の間に9年前、神様からのプレゼントが届いた。それがあの双子。

 

 

 

彼らの誕生した時、とっても幸せな時間だったけど産婆が二人にこう告げる。
”お二人さん、この子達・・・まったく同じ顔をして見分けがつかないわ”
その言葉を聞いて驚いた二人だったけれど、実際自分達が見ても区別がつかない。
辛うじてどちらが先に生まれたか、区別するためにリボンを結んだけれど
このリボンを解いてしまえば肉親である二人にさえ区別が出来なかった。

 

 

もう二人の頭の中には瓜二つの顔が浮かぶばかり。
どうやって見比べれば良いか、そう考えるけれど良い案は浮かばなかった。
”だったらどっちも同じ、全て同じにしましょうか?”
キルシュは悩むドイルにこう言った。
ドイルはキルシュの意図が解らなくて、怪訝そうな顔をしたけれど
その意図を説明されて、納得がいった様だった。

 

 

 

そうしてつけられた名前、瓜二つの双子につけられた名前はタヴィスとタヴィッシュ。
意味はどこか遠い国の言葉で、どちらも「双子」を意味した。
愛称も勿論一緒。二人はどちらも「タウ」だった。
周りの人は”そんなの安直過ぎないか?””ベイビーが可哀想よ?”と言ったけれど
この批判は後に、賞賛に変わっていった。
うん?どういう事か、って??

 

 


二人のタウが大きくなるにつれて、皆は彼らの名前を”救い”だと感じた。
何故なら成長しても彼らはやっぱり同じ顔、同じ声、同じ背丈、同じ髪の色に、同じ目の色だったから。
黙って突っ立って居ると、まるで分身かと思った。
彼らを知らない他所の人は、彼らを見て目を丸くし思い切り擦ったものさ。
これが夢じゃないなら、頭がおかしくなったのかも知れない。
そんな風に思ってしまう位に二人はそっくりだった。
大抵の人はその言動の違いで見分けがつく様になったけれど
黙っていると彼らの肉親ですら解らない。
だから名前を間違わずに呼ぶためには「タウ」そんな愛称で呼ぶのにピッタリだったのさ。

 

 


彼らだって、そんな自分達の容姿を使ってよく悪戯しているんだ。
近しい友人の前で互いの真似をして、困ってる相手を見て笑ったりしてた。
時々その対象がキルシュやドイルになっていたから癖が悪い。
だけどそんな時、皆は決まって「タウ」と呼んで、彼らに仕返しをしたものさ。

 

 

 

 


「ねぇ、それにしても・・・あと一週間であの子ら10歳だろう?
”旅立ちの時”だけど・・・あの子らはどうするんだい?
やっぱりテーラーの仕事をさせるのかい?」

 

 


すっかり話が盛り上がって、いつの間にやら店内のテーブルに腰をかけて
のんびりお茶会をしていたイライザが、キルシュにそう言った。
するとキルシュは困った様に眉を八の字に下げると、無理に作った笑顔で応える。

 

 

「ドイルも”それが自然だ”なんて言って、この間から仕事を教えているんだけど・・・・
どうもタヴィスがねぇ・・・・デザインも細かい手作業も苦手みたいで。」

 

 

「あぁ~・・・・まぁ確かにタヴィスに洋裁は向いてなさそうだねぇ・・・
その点、タヴィッシュは細かい作業は得意そうだけど?」

 

 


「えぇ、タヴィッシュはデザインも得意だし細かい手作業も完璧よ?
だけど・・・あの子達、ずっと一緒だったから”旅立ちの時”も一緒に居たいみたいで。」

 

 


「あはは、そうだねぇ・・・あの子らが別行動してるトコなんて想像出来やしないねぇ。」

 

 


「でしょう?あの子達、見た目も名前も一緒なのに・・・中身だけは正反対だし
当然得意な事も違っているし・・・それなのに”旅立ちの時”まで一緒に、だなんて
無理があると思わない?あまりのんびりしている暇は無いのだけれど・・・
本人達は至ってそれを譲らないのよ。困ったわ・・・・」

 

 

「ふむ・・・そうだねぇ・・・でも、きっと何とかなるよ。
”旅立ちの時”に失敗した子は居ないんだ。
あの子らを信用して、見守ってやんなよ。」

 

 


そう言ってイライザは笑ってキルシュの肩を乱暴に叩いた。
豪快なイライザの、イライザなりの励まし方だ。
だけどキルシュは困った様に笑って、目線の先で無邪気に遊ぶ二人を見つめた。

 

 

 


キルシュが憂いを帯びている原因。
それはさっきから二人の会話に何度となく出てきている”旅立ちの時”という風習にあった。
10歳の誕生日の日に、その子は一生を共にする素敵な職業に就く。
これはこの国に古くから伝わる、大事な風習のひとつ。
この街が出来てから、ずっとずーっと守られてきた風習だった。
だから例外なんて無く、二人のタウもこの”旅立ちの時”を一週間後控えた立場だったからだ。

 

 

 

キルシュはもちろん、テーラーの仕事をさせようと決めていた。
だけど実際に仕事をさせてみたら、タヴィスの不器用さに頭を痛めたのさ。
だから仕方なく、テーラーはタヴィッシュにさせて、タヴィスには他の仕事を薦めた。
だけども二人は互いに離れるのが嫌だと言って、言う事を聞かなかった。
ドイルとキルシュは何度となく良い案を考えたのだけれど、結局二人を説得するには至らなかった。
”僕らの仕事は僕らで決めるよ”タヴィスはそう言ったけれど・・・キルシュは心配していた。
あんなに極度の人見知りなタヴィッシュが他の仕事場でやっていけるだろうか。
あんなに極度のお調子者なタヴィスが他の仕事場でやっていけるだろうか。

 

 


見た目は一緒で、ずっと同じだったのに・・・”ここに来て決定的な違いが生まれて計画が狂った”
キルシュは親として、少し冷たい考えだったけど、正直にそう思った。
どうせ全てが一緒で、何かがひとつづつ違うなら
”器用さと発想力”の片方づつを分けていればよかったのに。
そうすればテーラーで希望通り、ずっと一緒に仕事が出来る、”旅立ちの時”も無事成功。
家でなら、あの二人の極端な性格だって上手くカヴァーできるのに、って思っては
いつもいつも、深くて真っ黒な溜め息を吐いていた。

 

 

 

 


「ねぇ、タヴィッシュ?”旅立ちの時”までに何をしたいか考えて?」

 

 


床に置いたパズルと真剣に睨めっこしていたタヴィッシュにそう言うタヴィス。
無責任な言葉にタヴィッシュは思わず眉を顰めて、手を止めた。

 

 


「それならタヴィスだって同じだろ?お前がテーラーの仕事が出来ないから
他の仕事を探す事になったんだから。」

 

 

 

不機嫌そうなタヴィッシュの言葉にも、タヴィスは大して応えない。
ヘラヘラと笑いながらおもちゃの車を左右に乱暴に動かしてるだけ。
どんどんタヴィッシュの眉間の皺は深くなるけど、タヴィスは特段気にしていなかった。
タヴィッシュが我慢出来ずに口を開こうとすると、タイミングを計った様にタヴィスが口走った。

 

 

 

「ちまっこい事嫌い。人は好き!でも難しい事も嫌い。話すの大好き!でも考えるの大嫌い!」

 

 

「話すの大好き、でも考えるの大嫌い・・・だろう?」

 

 

「さすが僕のお兄ちゃんっ!声がぴったりだったっ!」

 

 

「そりゃ双子だからね・・・・」

 

 

 

タヴィスの言葉に合わせる様に、タヴィシュがタヴィスの言葉を言う。
するとタヴィスは嬉しそうにニカッと笑って歯を見せる。
タヴィッシュはと言うと、そんなタヴィスの顔を横目に溜め息を吐いた。

 

 

 


「じゃあこっちも合うかな?・・・せーの!!
ちまっこい事好き。でも人は嫌い!でも難しい事は好き。話すの大嫌い!でも考えるの大好きっ!」

 

 


「ちまっこい事好き。でも人は嫌い。でも難しい事は好き。話すの大嫌い。でも考えるの大好き。」

 

 

「うわー♪やっぱりすっげーなぁ、僕らって♪」

 


「・・・・そりゃ双子だから・・・ね。」

 

 

呆れてるタヴィッシュ、喜んでるタヴィス。
皆が”合わせ鏡の双子”なんて呼んでいるけれど
二人が二人きりで居るとこんなにも違う。
見た目は一緒、ぜーんぶ一緒。
だけど中身はぜんぶ、ぜーんぶ違う。
それがタヴィスとタヴィッシュ。
そしてそれを本当の意味で知っているのは、この二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

「キルシュ・・・・タウ達は今日、何か案を出したかい?」

 

 

 

暗闇の中にランプが灯されて、ぽわっと浮き上がるリビング。
ドイルはコーヒーカップ片手に帳簿をつけるキルシュに声を掛ける。
その声に顔を上げてドイルを見上げるキルシュは、儚げに笑ってただ首を横に振った。
ドイルはコーヒーカップに一度口をつけると、その後すぐに溜め息を一回吐いた。

 

 

 

「あと一週間だと言うのに・・・やっぱり二人で同じ職と言うのは無理があるんじゃないか?
タヴィッシュはテーラーでなくても行けそうだけど・・・何分あの性格だし・・・
タヴィスは接客なんて似合いそうだけど・・・・何分あの不器用さだしなぁ。」

 

 

 

せっかく温かい家庭なのに、最近じゃすっかり”旅立ちの時”の事で憂いに包まれっぱなし。
仲睦まじい、素敵なカップルを悩ませる”二人の天使”の事でいっぱいだ。
キルシュとドイルは毎晩こんな風に溜め息をついて、結局静観する他なくて八方塞りだった。
親だからこそ、色々と憂う事があったりもした。
見た目も声も一緒、だから名前も一緒にしたけれど・・・・本当はそれじゃいけなかった。
個人として、見比べる努力が必要だったのに・・・10年の間それを怠ったからだ。
二人が同じな事が自然過ぎて、すっかり目が眩んでいたからだ。

 

 

 

「ねぇあなた。・・・・後悔なんて何も生まないわ。
大事なのは今、私達が感じる後悔を、次に繋げる事。
・・・・あの子達が個人として、そこに存在する事は事実。
だからきっと、あの子達は自分達で何らかの答えを出す・・・それを見守りましょう?」

 

 


キルシュが苦し紛れに笑ってドイルに言う。
これもここ最近の”いつもの光景”そう何を思っても、何を憂いでも”その時”が来る事に変わりはないし
その時を迎えるのはあの二人である事に代わりはなかった。

 

 

 

 

二人の悩みの種は、夜の暗闇の中で仲良く抱き合って横になっていた。
彼らの部屋は同じ机、同じ椅子、同じベッドに同じ色のベッドカバー。
それぞれにひとつづつ、同じ物を用意された同じ部屋だったけれど
二人は何故だかずっと、ひとつのベッドに入って眠った。
ひとつだけ空いた、寂しげなベッド。一度も使われない新品のベッドカバーが寂しそうだ。

 

 

「ねぇ、タヴィス。僕ね・・・タヴィスに合わせられる様、努力するよ。」

 


「変だな、タヴィッシュ。僕が君に合わせるよ?」

 

 

ベッド中で抱き合った二人が、こんな風に話すのも”毎晩の事”だった。
”旅立ちの時”が迫ってる、それは二人にとって最重要な事項であるに変わりない。
だけど、それと同じくらい重要なのは”二人が離れずに一緒の職につく事”だった。
何故かって?それは全てが同じまんまだった”双子”だったから。

 

 

「タヴィス。お前にはテーラーの仕事は向かなかった。
だったら他で君に合う職を探さなきゃ・・・・。」

 

 


「タヴィッシュ?お前は他人が苦手じゃないか?
だったらタヴィッシュに合う職に、僕が頑張って合わせるよ。」

 

 

 


二人は言ってる事の対象こそ違えど、同じ事を繰り返した。
違うのは当たり前なのに、彼らはやっぱり一緒だ。
互いが互いの事を想って堂々巡り、何をしたいのか何が希望なのか。
そんな当たり前の事ですら、相手次第だった。
だって一緒であるからこそ意味が合ったのに、実際よくよく考えるとまったく好みが違うから。
だからどちらかが希望を言えば、自ずと相手は正反対に立たされて孤独になってしまう。
そんな当たり前の違いに気付いた途端、自然と互いが互いに合わせる形になってしまった。
個が無い訳じゃないけれど、”合わせる事”そのものが個だと感じる様になっていた。

 


「もう!そうじゃないよ・・・・タヴィスに夢はないの?
・・・・就きたい職だよ、なりたいもの。」

 

 

「夢・・・?うーん・・・・僕はタヴィッシュと離れたくない。
それが夢だったから解んないかな?」

 


「なんだよ、それ・・・・。そんな事を夢だって言ったら僕だってそれが夢じゃない。
・・・・そんな事じゃ解決しないじゃないか。・・・いつまで経っても。」

 

 

「だけどぉ~、タヴィッシュ。毎日会うイライザさんに挨拶すら出来ないじゃない。
そんなんじゃ職に就いても仕事にならないだろう?
だったらタヴィッシュに向いた仕事を・・・・」

 

 

「もう、そうじゃないってば!・・・・・ぼ、僕は・・・・確かに他人と接するのは苦手だよ。
特に大人・・・・だって大きくて怖いし・・・・・だけどっ、タヴィスが一緒なら・・・・
頑張って変わるようにする・・・勇気を出せるようになるよ・・・っ」

 

 

「え?それじゃあ僕と一緒じゃないか。僕だって不器用でちまっこい事は嫌いだけど・・・
タヴィッシュと居られれば間違いがないからさ!
俺は適当だけど、タヴィッシュは真面目だししっかりしてるから!
だからこそ一緒だと~安心なんだけどなぁ~」

 

 


「・・・・・・だめだ、やっぱり昨日もその昨日とも一緒だ。
これじゃあ一週間後の”旅立ちの時”に間に合わないよ。」

 

 

 

「ええぇぇ・・・・大丈夫だよぉ!明日はさ、街の中心に行って見ようよ。
色んな物を見て、色んな事を体験してみよう?
きっと二人にそれぞれ合った、同じ職が見つかるはずだよ。
大丈夫、こんなに僕らは一緒なんだ。きっと一週間後も一緒だよ。」

 

 

 

不安は憤りに変わる。苛立ちは悲しみに変わる。
タヴィッシュは感受性が豊かだから、尚のこと。
だけどタヴィスはそれを知っている、自分は違うけどタヴィッシュがそうだと知っている。
だからタヴィスは自分と同じ顔についている、小さくて可愛い鼻先にキスを落とす。
タヴィッシュを励ますと、自分を自分で励ましてるみたいで・・・愉快だった。
満足気に目を伏せて、いつもの様にタヴィスが先に眠る。
タヴィッシュはそんなお調子者の自分と同じ顔のタヴィスが好きで、不思議と愉快だった。
自分が目の前で安らかに目を伏せる、そんな光景がとっても心地が良かった。
不安は漠然としてそこにあるけど、タヴィスと一緒に居たい。
そんな変わらない想いを何度も心の中で願いながら
タヴィッシュは目を閉じてしまう寸での時まで、タヴィスの安らかな寝顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

次の日の太陽が出勤する頃、まだまだ早いと言うのに二人は急ぎ足で家を出た。
目的は”旅立ちの時”が来ても、また一緒に居られる様な職を見つける事。
朝っぱらから色んな職を見てみたけれど、そう簡単には見つからなかった。
原因はそれぞれにある、どちらかがピッタリだとどちらかがピッタリじゃなった。
二人は互いに譲り合って”お前に合わせるよ”と提案したけれど、互いに首を縦に振ることはなかった。
違ってるのに同じ、だから思う様に事は進まなかった。
あれを見ては”これはダメ”これを見ては”これもダメ”
どっちかが必ず上手くいかない事ばっかりで、その度に溜め息が深くなっていった。
街の大人は、幼い二人を”旅立ちの時”を控えた双子として手厚く扱ったけれど
肝心の二人は何をやってもダメばっかりで、どんどん落ち込んでしまった。

 

 



 

 

気付けば出勤した太陽が、すっかりお家に帰ってしまってた。
職探しに夢中で、まったく気にすることもなかったんだ。
日暮れまでに帰る約束をキルシュとしていたのに、思わぬ誤算。
職がまた見つからなかった事、そしてマンマとの約束を破ってしまった事。
真っ暗な街の景色、静かな世界、まるで二人だけの様でタヴィッシュは怖かった。

 

 

「タヴィス!!早く走ってよ、マンマに叱られちゃうし、怖いのは嫌だよ!!」

 

 

石畳を踏む、軽やかな音がふたつ鳴る。
音は一定で、重なってひとつに聞こえる。
だけどその様子は正反対、タヴィッシュは声を荒げて大汗をかいてる。
だけどタヴィスはその後方をのんびり走って笑ってる。

 

 


「タヴィッシュ見て!あれ、キレイな電飾があるよー!」

 

 

のんびり屋のタヴィスは笑いながら誰かの家の電飾を指差して走ってる。
タヴィッシュが”余所見をするな”と忠告しようとした次の瞬間
タヴィスが黒くて大きな影に飲まれるのを見てしまう。

 

 

「どけっ!!ガキ!!!」

 

 

「うわっ!!!」

 


「タヴィス!!!!」

 

 


思わず早めた足を止めて、急転回でタヴィスの元に戻るタヴィッシュ。
黒い影の主にぶつかられて、タヴィスの小さな体は宙を舞って石畳に叩きつけられた。
慌ててタヴィスに駆け寄った所に、数人の大人が大きな影を連れて走り去っていく。
皆”待て!止まれ!”と大声を張り上げて、なんだか切迫した様子で怖かった。

 

 

 

「いてててて・・・っ、あっぶな~い!」

 

 


そんな大人の大きな影を見つめていたタヴィッシュの様子を知りもしないで
タヴィスが気の抜けるような間抜けな声をあげて笑った。
そんなタヴィスの様子を見て、タヴィッシュは思いっきり顔を歪めてしまった。

 

 

 

「バカッ!!何が危ないだ!!・・・っ!!何やってるんだよ、バカっ!!
タヴィスのバカっ!・・・バカ・・・・っ」

 

 

言いたい事がたくさんあった。言ってやらなきゃいけなかった。
だけどタヴィッシュの胸はいっぱいいっぱいで、ただ一言”バカ”としか言えなかった。
悔しさが食い縛った口から零れてく、安堵が瞑った両瞼から溢れてく。
良かった、良かった・・・・怪我もせず、いつもの様に間の抜けたタヴィスが居てくれて。
タヴィッシュは色んな感情で大忙しで、訳も解らないままタヴィスに抱きついた。
”二人が一人になっちゃいけない、絶対にそんな事あってはいけない。”
タヴィッシュはその瞬間、改めてそんな風に思った。

 

 


「ごめ・・・・ごめんってば、タヴィッシュ。
泣かないで?タヴィッシュが泣くと僕まで泣きたくなるよ・・・・
タヴィッシュが怖がったら、僕まで怖く・・・こわ・・・っ怖くなっちゃうよ・・・・っ」

 

 

目の前の自分と同じ顔のタヴィッシュが、必死に嗚咽を漏らしてるのを見て
少しづつ自分の身に起こった出来事への恐怖が生まれてくる。
まるで目の前のタヴィッシュが自分に見えた。
怖くて、石畳に打ち付けた体が痛んで、流れていった緊張感に血の気が引いた。
だからタヴィスもいつしか、タヴィッシュにしがみ付いて泣き出してしまった。

 

 


*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

 

 

 

ね、お話の途中なんだけど・・・今猫の鳴き声がしなかった?
うーん・・・ここから結構離れた所で聞こえた気がするんだ。
・・・・もしかしたら、広場にあの青毛の猫が来てるのかも・・・。
だとしたら、こんな槍の雨は彼にとって危険だ・・・っ!

 

 

ごめん、君。僕、ちょっと広場まで彼を迎えに行って来るね。
・・・・え?ここに連れてきても良いのかい?
あぁ・・・それは凄く有り難いよ!きっと猫もビショビショだから。
じゃあ、お言葉に甘えて・・・ちょっとだけ行って来るね。
お話の続きは、彼を迎えに行って戻ってきたらしよう。

 

 


あ、この傘使って良いのかい?ありがとうっ!!
君ってば本当に良い人だ・・・・大好きだよ。
じゃあ、いってきますっ!鍵はちゃんと閉めるんだよ?じゃあね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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