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2017/12/13

語り屋と君:ダミアンとアーリック①


やぁ、こんにちは。

 






いやね、今日は他の場所に用事があって
本当はそっちに行く予定だったんだけど・・・・
なんだか不思議な感じがして、思わず君の家に来ちゃったんだ。
うーん、なんだったんだろう?あの感じ・・・。
うん、自分でも良く解らないんだよね
・・・ワクワクでもウキウキでもない・・・
なんだか凄く・・・・落ち着かない感じなんだ。

 









 

 

あ、うん・・・ありがとう、じゃあ遠慮なくお邪魔するよ。
うん?あ、そうなの?ヨエルに会ってきたんだ。
ヨエルは元気だったかい?絵は上達した?
ん、あの絵・・・ヨエルの絵?ちょっと見せてもらって良い?

 








 


うわぁ、ピッピじゃないか!久しぶりにピッピの姿を見たなぁ。
うん、ヨエルの絵は確実に上達してるね、ピッピにそっくりだ。
あー、ピッピって言うのはピピンの愛称だよ。
そうだよ、僕らとっても仲良しなんだ・・・・。
ふふふ、ピッピってば・・・すっかり大きくなっちゃったなぁ。

 








 


あ、ありがとう。遠慮なくいただくよ。
・・・この香り、オルヅォを用意してくれたのかい?
うーん、コクがあって美味しい・・・・。
君、知ってた?オルヅォってチョコ味のもあるんだよ。
そうそう、色んな味があって・・・あれはどこの世界だったったっけ・・・
今度、見つけたら買ってきてあげるね。
君にはいつも、ご馳走されてばかりだから、さ。








 

 

 

うん?あー、うん・・・ピッピともヨエルとも・・・長い間会ってないかも?
え?ヨエルが僕に会いたがっていたって?
うふふ、嬉しいなぁ・・・変わらず僕を好いてくれてるんだ。僕もヨエルが大好きさ。
・・・・そ、そんな言い方しないでよー、会わないんじゃない。会えないんだよ。
だってさ、僕ってば忙しいんだ・・・こう見えても。
あっちにも行かなきゃ、こっちでも呼んでる、あぁまたこっちだ・・・って
そんな事やってるとママが急に”帰ってこい”って言ったり。
青い猫の広場には、それこそしょっちゅう行っているけど・・・どうしてだか会えないんだ。
彼らにも会いたいけれど・・・時の巡り合わせがないと、さ。

 










 


あ、嫌だなぁ!そんな哀しそうな顔しないでよ?
僕らは会えないけど、それでも会いたいと思えば会えるんだ。
時の巡り合わせは、いつかまた必ずやってくる。
だから互いにその時をじっくり待つって決めてるんだ。
忘れていない事がその証明、僕にとってはそれが一番大事な事なんだ。
だから・・・・君が悲しむ必要なんて、どこにもないんだよ。

 

 

 






 

もう、ほら!そんなしょげた顔してないで・・・・そうだな。
今日は君へのプレゼントも用意して無かったんだけど
ちょっと、いつもとは違う・・・物語を聞いてみない?
あまり進んでするお話じゃないから・・・・君だけに特別だよ?

 






 


よし、じゃあお話を始めよう。
今日は少し・・・恐ろしい思いをするかも知れない。
だから僕の右手は、君のために空けておくよ。
心細くなったら、この手を握り締めればいいよ。

 







 

 

 

 


*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.

 

 

ダミアンとアーリック

 

 



 

月がまだ丸かった頃、その子は生まれた。
一人ぼっちで産み落とされて、可哀想な子だった。
真っ裸で丸まって、みすぼらしい子供。
誰が産み落としたのか・・・誰がこの子を森に置き去りにしたのか・・・。
それは誰も知らない、その子も知らない。
誰も訪れない静かな森で、たった一人で生まれた子。
だからその子は丸まった・・・・寂しい、暗い、怖い。
ずっとそんな風に思っていたけど、涙を流せないままに。








 

 

 

その国はとても豊かな国だった。
芸術に溢れて、人々は皆それを生業にしていた。
街のあちらこちらで音楽家が気紛れに演奏し
カフェの美味しいケーキを食べながら人々がそれを楽しみ
そんな平和な光景を、画家が笑顔でキャンパスに描く。
もちろん街は美しく、誰かが描いた絵画の様な世界で
そんな絵画の世界に住む住人もまた
誰かが描いた絵画の世界で、喜びに満ちた笑みを湛えていた。

 

 








 

アーリックはそんな国に住む一人の音楽家だ。
彼はその国の王の一人息子だったけど
贅沢が好きではなくて、街の一般的な家を借り
身分を隠し”一介のヴァイオリン弾き”として暮らしていた。
王族らしからぬ所業を、彼の親族は良く思っていなかったけど
何を言われてもアーリックは聞く耳を持たなかった。
こんなに平和で、豊かな国に・・・王のやらなきゃいけない仕事なんて無い。
アーリックはそんな風に思っていたから。










 

 

「ダミアン、明日は西国に向かおうか。
ここから少し遠いけど、馬車を頼めば数時間で着く。
ダミアンは西国の景色を見た事はあるかい?」

 





 

決してキレイだとは言えない、古い家。
太陽が海に帰る頃になると、この家の一室は柔らかいランプに照らされた。
その光は温かい、優しいアーリックの心の様な光。
それに照らされたダミアンと呼ばれる少年が笑って口を開く。

 









「ううん、西国は初めてだ。
言葉は通じる?歌は通じる?」





 

 

小さめの鍋にたっぷり入ったスープをかき混ぜながら
アーリックはダミアンの言葉に笑って応える。
プツプツと音を立てるスープのリズムは一定だ。
心地よい、心臓の音の様にアーリックの声に伴奏として加わる。

 



 

「言葉は通じないよ。
だけど心配いらない、歌は通じる。
音楽に言葉は要らないから、ね。」

 





 

「あ、そうか。それに僕の歌にも歌詞がないんだった!
うふふ、僕ってばおかしいなぁ・・・。」

 



 


ダミアンはアーリックに言われて、可笑しそうに笑った。
スプーンを何度もテーブルに叩きつけながら。
コンコンコン、スプーンとテーブルがぶつかって音が鳴る。
その音にアーリックも合わせて頭を振った。
まるでリズムに併せるように、右へ左へ・・・・と。

 




 

「あはは、そうだねダミアン。
君の歌には歌詞がない。だからこそ誰もが好きになる。
・・・よし、出来た。
じゃあ、明日は予定通り西国に向かうよ。
そうと決まれば、早速夕食にしよう。」

 



 

「うん!!今日は凄いね、ポトフだ!
いただきまーすっ!」





 

 

「あはは、慌てるな?ダミアン。
やけどをしたら歌が上手く歌えないぞ。」

 








 

スープをよそった皿をダミアンの前に並べると
ダミアンはニッコリ笑って食事を始めた。
アーリックはそれを横目に見ながら笑った。
幸せそうに食事をするダミアンを見ながら
少し昔の事を思い出してしまう。
目を細めれば、ダミアンの姿が少しひしゃげた。

 

 

 

 







あれは珍しく、この街が嵐に襲われた日の事だった。
各地をウロウロして、お金を稼いでいるアーリックは
その日も他の土地に行っていて、家路を急いでいた。
ボロのレインコートは役に立たないし、懐にしまったヴァイオリンケースが重い。
このままだと大事なヴァイオリンがダメになる気がして
アーリックはどこかで雨宿りをしようと考えた。

 





 



 

「・・・・・と、言ってもここら辺で良い場所はないなぁ。」

 






 

辺りは街から離れた場所、あるのはだだっ広い草原とあぜ道。
それに少し目を細めれば見える、あの森だけ。
風はボロのレインコートを脱がそうとするし、雨は痛いくらい落ちてくる。
アーリックの疲れた足も泣いているし、お腹も空いている。
困り果てて見えるは、やっぱりあの森だけだ。

 






 


「くっそ・・・背に腹は変えられない・・・か。」

 





 

 


アーリックはそう呟くと、向かい風に立ち向かう様に足を踏ん張った。
森・・・・視界の中でジッと動かない、あの黒い森に向かう為に。
アーリックはそれを良しとしなかったけれど・・・もう色々と限界だった。
だから、仕方が無いと思いながら森へと足を進めた。
ヒューヒュー風が鳴くと、どこか遠い所で何かが転がる音。
ザーザー雨が叫ぶと、どこか遠い所で水の跳ねる音。
嵐はまったく力を加減する事なく、アーリックを拒んだ。
まるで”森に立ち寄るな”と言いたがっているみたいに。

 









 

 

森に入ったら、幾分か風も優しくなった気がした。
上を見上げれば大きな木が、なびいて揺れていたけど
アーリックを守るように両手を伸ばして必死に風と戦っているみたいだ。
その木のお陰でアーリックは少しだけ雨からも守られた。
その事にホッと一息ついたアーリックは、木の幹に背をもたれて座り込む。










 

 

 

「君、ここの番人かな?・・・ありがとう、少し休ませてもらうよ。」

 












 

アーリックは木にそう言って、少しだけ目を閉じてしまおうと思った。
風の音はさっきより大きくなって、森全体がざわっと揺れてる。
木と木がぶつかってミシミシと嫌な音が鳴って、ピシッと折れる。
少し不気味で不穏な雰囲気の森、ちょっと怖い音。
だけどアーリックにとってはそれも、音楽のひとつとして楽しめた。
嵐から自分を守ってくれる、この黒い森。

 









 

 

人々はこの森を悪魔の森だと言って、長年忌み嫌ってきた。
だからアーリックもこの森に入る事を躊躇った。
街はあんなにもキレイで、明るかったのに
この森は不気味だし、真っ黒だし、人を寄せ付けない。
それに・・・・・皆そう言っていたから。
だけど入ってみたら優しい木に守られて、アーリックは眠りにつこうとしてる。

 










 

「ふふ、すまないね。僕も知らなかったんだ。
君たちがこんなに優しかったなんて、さ」

 










まどろみの中で、アーリックはそう呟いた。
そうだ、何も恐ろしい事なんて無いじゃないか。
この森は他と何も変わらない、ただの森だ。
だから長い間、人々の言い伝えを信じて生きてきた自分の事を戒めた。

 





 

「ねぇ、助けて・・・」

 







 

「え・・・・・!?」

 





 

豪雨と暴風が奏でる大音響の音楽の中
泥の様に疲労した思考と、少しだけ安心した心のせいで
アーリックがウトウトと意識を手放しかけた時
一際澄んだ声がアーリックに語りかけた。
アーリックは驚いて目を開けると、目の前には小さな少年が横たわっていた。

 

 

 





「・・・!!君、大丈夫かい!?」

 

 






慌てたアーリックは彼に歩み寄ると、そう声を掛けた。
だけど・・・・少年は動かない。
それどころか、こんな大雨の中で目を開けたまま瞬きすらしない。
真っ裸で丸まって、目は死んだ魚の様に地面を見ていた。

 




 





「あぁ・・・なんと言う事だ・・・・!惨い・・・・」

 

 







そんな少年の様子を見れば、誰だって予感した。
・・・彼は死んでいる、って。
その予感を確信にする為に、アーリックは彼の細い腕を取り、脈を確かめる。
・・・・・・残念な事に、脈動と言うリズムを感じない。

 

 









「可哀想に・・・・・」

 










こんな嵐の中、こんな黒い森の中・・・衣服も着ずに冷たくなってしまった。
アーリックは眉を顰めながら、彼の手をそっと胸元に置いてやった。
開いたままの彼の瞼を優しく撫で、真っ赤な瞳を閉じてやった。
軽い体を抱き上げて、大きな木の下に移してやったけど
ポタポタと葉から落ちる雨に打たれて、少年はびしょびしょなまま。

 

 








「何があったんだ・・・可哀想に・・・・。
せめて、私が教会に連れて行ってやろう。」

 

 









嵐が止んだら、この子を教会に連れて行ってやろう。
アーリックはそう思った。
アーリックは優しい青年だったから
こんな哀しい最期を迎えた少年をほってはおけなかった。
だからせめて、神様に導いていただける様に・・・
聖なる場所へ連れて行ってやろうと思った。

 













 

 

 

 

「・・・ぇ、・・・ねぇ!ねぇ!ウル起きて!!」

 









 

 

 

「う・・?うわっ!!ダ、ダミアン!」

 


 

 

 


「あ、やっと起きたな?ウルの寝ぼすけ!!」

 

 

 



 

「あれ・・・・?朝だって?・・・・変だな。
私はさっきまで、君とポトフを食べていたんじゃ・・・・?」

 

 

 


 

「は?・・・・もー、また始まったな。ウルのうわ言。
昨日の夕飯はポトフだったけど、今は朝!!
お風呂に入って、俺が破いたズボンを文句言いながら繕って
その後すぐに眠っただろう??・・・何言ってんだよ。
変なのはウルのほうだよ!!」




 

 

 

 


辺りを見回して見ても、ダミアンが言う様に変わった様子は無かった。
そう、いつもと変わらない、朝の光景だった。
アーリックの部屋、物が少なくて殺風景で、書き溜めた楽譜が朝風に揺れている。
ダミアンはアーリックのベッドに圧し掛かって、機嫌が悪そうに眉を顰めている。
・・・・やっぱり何回瞬きをしても、何も変わらない朝の光景だった。

 

 

 

 

 


「・・・・・おかしいな。」

 

 

 

 

 


「おかしいのはウルだけだよ!さぁ早く支度をして!
今日は西国まで行くんだろう?馬車の空きが無くなっちゃうよ!」

 

 

 

 

 

 


ダミアンが不貞腐れたままベッドから降りると
足音をわざと立てながら部屋を出て行った。
その後ろ姿をぼうっと見つめながらアーリックは微笑み呟く。

 

 

 

 

「・・・頭から湯気でも出てそうだな。」

 






 

「何か言った!?」

 

 







アーリックの呟きは、ほんの小さな物だったけれど
ダミアンの耳には届いてしまった様だ。
扉の奥でダミアンが叫ぶと、アーリックは声をあげて笑った。
本当にダミアンの耳は地獄耳だなぁ~、なんて呑気な事を考えながら。

 

 

 

 










 

支度を終えて、家を出た二人は今日最後に残った馬車を無事調達すると
ユラユラと揺れる荷台で、今日の打ち合わせを始めていた。
楽譜を何枚か眺めながらダミアンは鼻歌を歌ってみせる。
アーリックはその歌声に耳を預けて、微笑んでいる。
パカパカと聞こえる馬の蹄鉄のリズムが、彼の声と同調していて
なんだか心地が良かった。








 


「ねぇ、ウル。俺の歌ってそんなに気持ちいい?」

 








「うん、とっても良いよ。
ダミアンの声は一際澄んでいて・・・私のヴァイオリンにも良く合ってる。」

 










「ウルのヴァイオリンだってキレイだよ。
頭が溶けそうになって、体に良くない薬みたいだ。」

 









「体に良くない薬・・・・?そんなのどこで試したんだい?」

 







 

「試した事はないけど、あるだろう?
”人を狂わせる悪い薬”」











 


アーリックは無邪気なダミアンの言葉に応える事を少し躊躇った。
どうしてだか、ダミアンは時々こういった可笑しな事を言うのだ。
アーリックよりも10は年が幼い彼が、何故そんな事を言うのかが不思議だった。
もちろん、そういった類の物が無いわけではないけれど
この国は平和だったし、狂わなきゃいけない程荒んでもいなかったから
大抵の大人は、そんな物騒な物とは縁を切りたがっていた。
アーリック自身も例外ではなかったから、尚不思議に感じた。

 

 









「確かにあるけど・・・うちの国では製造も使用も禁止されてる。
そんな物騒な物を話題に出す者だって居ないよ。」

 










「だけど、国境を越えたらすぐそこにあるじゃない?
それにこの国にだって、きっとどこかにあるよ。
口にはしないけど、それを皆知ってるだろう?
だから例えに使っただけだよ。」

 

 






 

慎重に言葉を選んで、アーリックはダミアンに諭した。
だけど、ダミアンの純粋な心はそれを受け入れなかった様だ。
ニコニコと笑ったまま、ダミアンは平然とそんな風に答えた。
アーリックは困惑したが、これが初めてではなかったのが幸いだった。
子供ならではの無邪気さが、そんな事を言わせるんだろう・・・。
そんな風に自分に言い聞かせて、アーリックは話題を変える。

 

 




 

「そうか・・・・あ、国境が近い。そろそろ降りる準備をしよう。」

 

 






「うん、今日もたくさんのお客が立ち止まってくれるといいね!」

 









 

話題を変えて、その次の瞬間
アーリックは言葉に出来ない程の安堵を覚える。
ダミアンがいつものダミアンに戻った様な気分になるんだ。
先程まで禁忌を口にしていたダミアンが、まるで別の人間に見えたけど
やっぱり自分の思い過ごしだった・・・そう心底思えたから。

 

 

 





暫く街道を歩いていると、ダミアンは初めての街に目を瞬かせた。
西国はアーリックの国よりも都会で、とても大きい国だ。
陽気なギターが奏でる歌は、アーリックの国では聴かない情熱的なリズム。
咲いてる花でさえ、アピールの仕方が違うし
何も見ていたって、どこを向いていたってワクワクした。

 



 




「ねぇ、ウル!すごいね、あの建物・・・まるで大きいキャンパスだ!」

 

 





「え・・・?大きいキャンパスだって?」

 

 




 

並んで歩いきながら、ダミアンは嬉しそうに声をあげた。
アーリックはその楽しげな声の主が見つめる先に目を向ける。
そこは真っ暗な路地の一角、建物の壁一面にペンキで絵が描かれている。

 

 








「あぁ、あれはストリートペイントというらしいよ。
私らの国ではない文化だけど、あれも立派なアートなんだって。」

 

 







「へぇー、すごいなぁ!大きくてびっくりした!」





 

 

「あはは、そうか。ダミアンは初めてだもんなぁ。」

 




 

「うん!・・・・あ、ねぇ?あの壁の下でうずくまっている人は?
あの人は何をしているの??」

 

 





「あ・・・・えっと・・・・・それは・・・」

 

 





 

平和で呑気な会話、笑って話をしているダミアン。
次の疑問の対象にアーリックは少し戸惑った。
ダミアンの指さした先にうずくまる人、あれはいわゆる浮浪者だ。
アーリックの国では見ない、これも文化のひとつ。
不幸で痛ましい姿、もしかしたらもう息が無いのかも知れない。
だけど、その状況を何て説明すればいいのだろうか。
だからアーリックは戸惑った。








 


「ウル?どうしたの?あの人、何してるの?あんなところで。」

 








「あ、うん・・・・えっとね。」

 









急に歯切れの悪くなったアーリックに、容赦なくダミアンは問うけれど
アーリックは焦るばかりで上手く言葉に出来なかった。
どう説く事が正しいのか、年長者としての正しい選択をしたかった。
だけどもダミアンはその時間すら惜しいらしい。
アーリックの服を引っ張って、少し苛立ってすら見えた。

 







 

「そうだね・・・・あの人は・・・・お腹が空いているんだよ。」

 







「え?そうなのか!だったらご飯を食べればいいのにね。」

 







 

アーリックが苦肉の策に吐き出した言葉を、ダミアンは笑った。
無邪気な彼には、どうしてご飯を食べられないかが解らないから当たり前だ。
アーリックはもう一度、その説明をしなければいけないか・・と悩んだ。
だけど、その理由は様々で人によっても異なる。
失業したのか、病気で苦しんだ末か、国の情勢が穏やかじゃないか、その他色々。
だから純真なまでに目をキラキラさせるダミアンに少しだけ笑いかけると
そのまま暗い路地にうずくまる人に近寄る。

 








 

「ウル・・・・・?」

 







 

不思議そうな顔をしたダミアンも、アーリックについてくる。
後ろから声をかけてくるけど、アーリックは敢えて言葉もなしに
浮浪者の目の前に金貨を一枚、そっと置いて立ち去ろうとする。
ダミアンはアーリックの一連の動作に、違った意味で目を丸くする。

 

 








「え、ウル!?大事な金貨をあげちゃうの!?」

 





 


「私には”こんな事しか出来ない”から、ね。
さぁ、ダミアン。興行先に向かおう。」

 







引き止めたダミアンを振り返りながら、アーリックは哀しげに微笑んだ。
ダミアンはいまいち納得出来ていない様で、まだブツブツと文句を言っていた。
だけど、アーリックの耳にはあまり入らない。
自国と西国、目に見えぬ国境で隔たれているけど、ひとつに繋がった土地。
なのに”こんなに違う”場所だ。
暗くて見えない、あの路地の先・・・・あの先から香った匂いは腐敗臭。
きっとこの国は豊かさと引き換えに、貧しさも背負った国だろう。
だからアーリックは悲しかった。
自分がこの国の王族なら、きっと自分は責務から逃げ出さずに居ただろうって。
国の隅々まで豊かさで満たす王になりたいと、そう願っただろうって。

 









「・・・・・・・・・・・。」











 

ダミアンは、静かになってしまったアーリックの背中を見ていた。
いつも歩幅を合わせてくれる、アーリックの背中だ。
そこを凝視する様にして、歩を進めていた。





*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,..,:*:,.









あれ・・・・ねぇ、君?
今何か・・・外から聞こえなかった?
ちょっと待って・・・・あ、やっぱり聞こえる。
あれってバイオリンの音・・・かな?
うん、そうだよね・・・やっぱり。
そうだね、きれいな音色だ。
・・・・だけど、こんな時間に??
もう日が翳って来ているのに・・・おかしいね。




ちょっとそこで待っていて。
気になるから僕が見てくるよ。
・・・・ううん、大丈夫。
すぐに戻ってくるからね?






じゃあお話は一旦中止。
僕が出て行ったら、すぐに鍵を閉めるんだよ。
・・・・・ううん、そうじゃないけど・・・・
少しだけ、嫌な予感がするだけ。
・・・・・・それじゃあ、行ってくるよ。


















next.....



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2011/07/21 語り屋と君 Trackback(0) Comment(0)

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